
はじめに
ANDOR(邦題『キャシアン・アンドー』)とは 2022年にシーズン1全12話が配信され、2025年にシーズン2(最終シーズン)全12話が配信されているスター・ウォーズフランチャイズのDisney+ドラマシリーズである。
「スター・ウォーズ」の全体像(公開順と作品内時系列の関係一覧)

スター・ウォーズとは1977年に公開された第一作目(時系列的にはエピソード4と呼ばれる)を起点に、その前後を保管する形であらゆる映画やアニメシリーズ、ドラマシリーズが制作されている。(本記事では、スピンオフ小説やコミックスについては触れないこととする。)
1977年から1983年にかけて公開された、いわゆるオリジナルトリロジー(エピソード4,5,6)があり、その前日譚としてのプリクエルトリロジー(エピソード1,2,3)が1999年から2005年にかけて公開された後、ディズニーに買収されたあと、2015年から2019年にかけてシークエルトリロジー(エピソード7,8,9)が公開された。
シークエルトリロジー公開の裏では同時にスピンオフ映画として2016年に『ローグ・ワン』、2018年に『ハン・ソロ』の2本が公開され、どちらもプリクエルトリロジーとオリジナルトリロジーの間をつなぐ補完作品となっていた。
実写映画でこそなかったが、アニメーション作品としては、『クローン・ウォーズ』が長編アニメーション映画として2008年に公開され、その後はテレビ配信アニメーションシリーズとして『クローン・ウォーズ』が制作・公開された。ディズニーの買収に伴って一度完結前に制作がストップしたが、その後一部のエピソードについては改めて制作がされてDisney+での配信でもってシーズン7までを完結させることになった。『クローン・ウォーズ』シリーズは、プリクエルトリロジーのエピソード2と3の間をつなぎ、特にシーズン7の最終数話においてはエピソード3の真裏で起きていた出来事を描いている。
配信サービスDisney+のローンチとともにスタートしたドラマシリーズは、オリジナルトリロジーとシークエルトリロジーの間の時系列を埋める話が『マンダロリアン』『ボバ・フェット』『アソーカ』『スケルトン・クルー』の4シリーズで進行中で、プリクエルトリロジーとオリジナルトリロジーの間をつなぐシリーズとしては『オビ=ワン・ケノービ』と『キャシアン・アンドー』が制作されている。他にも、プリクエル・トリロジーよりはるか昔の出来事を描いた『アコライト』も公開された。
また、ディズニー買収後のアニメーションシリーズは『反乱者たち』というオリジナルトリロジーの直前を描いた作品や、『レジスタンス』というシークエルトリロジーの裏側の時系列を描くシリーズ、クローン・ウォーズの続きを描く『バッド・バッチ』も公開されている。
『キャシアン・アンドー』と『ローグ・ワン』の関係、スターウォーズとしての新しさ・魅力
この記事で取り上げる『キャシアン・アンドー』は、『ローグ・ワン』のスピンオフドラマという位置づけとされている。『ローグ・ワン』自体は、2016年にディズニーによる買収後に作られたスピンオフ映画で、元祖の無印スターウォーズ「エピソード4」の直前の出来事を描いた作品となっている。
もちろんエピソード4に登場したキャラクターはほとんど登場しないが、どのようにしてあの多くの人が知る「スターウォーズ」の土台がセットアップされたのかを描いている。そしてその『ローグ・ワン』に登場していたキャラクターがいかにしてそのポジションにいたのかという背景を描くという名目のもとで企画が立っているのが、この『キャシアン・アンドー』である。
タイトルロールになっているキャラクター、キャシアン・アンドーは、『ローグ・ワン』の主人公ジン・アーソと出会い、彼女とミッションをともにすることになったキャラクターであるが、キャシアンだけを追いかけた作品ではない。むしろキャシアンという『ローグ・ワン』で知られたキャラクターの背景を描くという名目を利用して、スターウォーズ世界の帝国による抑圧的な政治がどのように一般市民へ影響を与えていたのか、帝国による支配下の銀河の生活はどうなっていたのか、そこからどのようにして反乱が生まれていったのか、反乱に加わるとはどういうことなのか、そして同時に帝国側が支配をすることはどのように成り立っていたのか、帝国側に協力する人たちはどのような考えや生き方をしていたのか、といったことを個人個人のミクロレベルで描きながら、マクロな体制を浮かび上がらせていくという作品になっている。
この意味において『キャシアン・アンドー』の視聴をする上では、『ローグ・ワン』をみているかどうかや、その後のスターウォーズを知っているかどうかは関係ない作品となっている。
むしろ、我々の住んでいる世界とは異なる世界において、ファシズムの政治体制がどのように一般市民への抑圧を成立させているか、あるいはその圧政に対して立ち向かうこととはどういうことかを描き出していることに関心がある人のほうが、このドラマに関心を持ちやすくなっているとも言える。
スターウォーズを全くみたことがない人に向けて言うのであれば、基本的にスターウォーズというのは1977年の無印のときから、絶対悪の帝国軍に対し、ヒーローたちが反乱軍として立ち向かうという構造が基本に置かれている。もちろんその善悪が問い直される場面や続編や前日譚は存在するが、基本的にはそうなっている。
しかしこの『キャシアン・アンドー』では、反乱側のモラルというのも問い直される。帝国というファシズムに対する反乱という名目があればどんな手段をとっても良いのか。大義のための犠牲はどこまで許されるべきなのか。帝国がやっているファシズムが止められるべきものであったとしてもそれを実行しているいち個人はすべて殺されて当然の「悪者」なのだろうか。こういった問い直しをしていきながら、それでもなおファシズムと立ち向かうための大義の闘いに良くも悪くも巻き込まれていくあらゆる立場の人達を群像劇的に描き出している。
前線に立つ反乱軍の戦士ばかりがフォーカスされてきたのが従来のスターウォーズであったが、帝国に対する反乱に出資する銀行家や、帝国の議員という立場を全うしながらも密かに反乱に協力する人物などあらゆる立場の人にスポットが当てられる。
また、監督自身がタイムレスな物語を作っていると語っているので、あえてこれを言うことは野暮であると自覚したうえで書くが、シーズン2では第一話から「ビザ」や「書類なき移民」の立場の弱さ、そして「書類なき移民」であるとわかっていながらも労働力として必要とする地元民たちとの関係が描かれる。これは明らかに現在のアメリカ合衆国の状況を意識せずに観ることのほうが難しい。もちろん移民や難民を巡るあらゆる理不尽な自体や暴力は(残念ながら)タイムレスに存在しておりその意味では特定の事象だけを意識して描いているわけではないことは明らかだ。また、シーズン2の序盤では性暴力(未遂)シーンも描かれるためこのあたりは視聴にあたっては少々人によっては視聴しづらい場合もあるかもしれない。それでもなお、スターウォーズが「ウォーズ」である以上、現実の戦争から目を背けずに制作にあたった制作陣の誠実さであると言えよう。シーズン2の中盤移行では、虐殺が描かれることも予告編や第一話の中で示唆されている。ジェノサイドが進行する現在においてこれらのエピソードがどのように描かれどのように受け取られるのかは注視したい。
『キャシアン・アンドー』全2シーズンの構成
シーズンの構造としては、おおよそ3話で一つの物語となっているため、複数の映画で構成されたドラマとして捉えて良い。
シーズン1は、第1話~第3話、第4話~第7話、第8話~第10話、第11話~第12話の4部構成になっていて、シーズン2は第1話~第3話、第4話~第6話、第7話~第9話、第10話~第12話の4部構成となっている。シーズン1とシーズン2の間は1年間のタイムジャンプがあり、シーズン2の各3話ずつのセクションの間にはそれぞれ約1年ずつのタイムジャンプがあるとされている。
ドラマの冒頭に表示される年号BBYは、Before Battle of Yavinというスターウォーズ世界の元号で、Battle of Yavinというのが元祖スターウォーズ(エピソード4)で描かれる出来事で、そこを起点にその前BBYとその後ABYで数字が振られている。
シーズン1はBBY5の出来事を、シーズン2はBBY4からBBY1のうちの最も重要な数日間から数週間の出来事をピックアップして描いているとトニー・ギルロイ監督は語っている。
シーズン2は2025年4月23日(水)から配信が始まっており、4月30日(水)に第4話~第6話、5月7日(水)に第7話~第9話、5月14日(水)に第10話~第12話が配信されるスケジュールとなっており、毎週3時間近くの映画が公開されるイメージである。
またシーズン2の最終話は、映画『ローグ・ワン』に直結すると言われているため、『ローグ・ワン』をこれまでにみたことがなく今からドラマを見始めるのであれば、『ローグ・ワン』はシーズン2まで観終わってから視聴するというのも選択肢になり得る。
おわりに
何にせよ、スターウォーズは、我々の現実世界でいうところの歴史モノを観ている感覚で見ればよいので、大河ドラマで「織田信長の死がネタバレだ」とは言わないように、ある意味でどの程度の情報を持っていても、どこからみても楽しめるようになっていると思っている。
むしろその過程やそのプロセス、その中で起こるエモーションのぶつかり合い、人間ドラマこそが見どころなので、ぜひ『キャシアン・アンドー』からでもスターウォーズの世界へ足を踏み入れてみるのも選択肢の一つだろう。