はじめに
2025年になりました。ブログは最近全然更新できていませんが、YouTubeチャンネル WEGA ch. ではかなりの頻度でトーク動画などを更新しています。が、たまには文字のほうが扱いやすいものもあるということで2025年一発目の記事はこちらです。
昨年2024年末に、ザ・ハリウッド・レポーターに掲載されたピクサーの最新作、2月に Disney+ で配信されることになっている『ウィン or ルーズ』におけるトランスジェンダーのキャラクターを巡る議論についての記事を和訳して掲載したいと思います。
これは日本語圏ではあまり話題いなっていませんが、かなり重大なことが起こっていると思われます。ところどころ関連記事へのリンクを補足的に細かく入れながらできるだけ忠実に和訳します。
元記事:
The Hollywood Reporter/ By Ryan Gajewski (Dec. 27, 2024 1:00PM)
Ex-Pixar Staffers Decry ‘Win or Lose’ Trans Storyline Being Scrapped: “Can’t Tell You How Much I Cried”
記事和訳
元ピクサースタッフ『ウィン or ルーズ』のトランスジェンダーのストーリーラインの廃止を避難:「どれだけ泣いたことか」
当該エピソードについて、あるコンサルタントはトランス女性の俳優シャネル・スチュワートが声を務めるキャラクターをシスジェンダーに変更することで、ディズニー社は「自分ではない誰かを演じるよう求めている」と語っている。
著:ライアン・ガイェヴスキー シニア・エンターテイメント・レポーター
2024年12月27日 13時公開
ピクサーの配信シリーズ『ウィン or ルーズ』でトランスジェンダーのストーリーラインの創作に貢献したクリエイターたちの数人は、先週本誌『ザ・ハリウッド・レポーター』がその中心のキャラクターがシスジェンダーとして描かれる事になったというニュースを報じたあと、その喪失を嘆いている。
「ほとんど驚きませんでしたが、打ちのめされました」と、このエピソードのコンサルタントを務めた元ピクサーのアシスタント・エディターのサラ・リガティッチはTHRに語る。
「長い間、ディズニーは素晴らしいコンテンツを作るビジネスではなく、多大な利益を上げるためのビジネスを続けてきた。私がピクサーにいた2年前に遡るが、ボブ・チャペック(当時のCEO)と私たちがミーティングをしたとき、彼らはアニメーションを保守的なメディアとみなしていることを明確に話していました。」
THRが報じたように、『ウィン or ルーズ』(コーチ役のウィル・フォルテ含む声優陣を起用した、中学校の男女混合ソフトボールチーム「ザ・ピクルス」に焦点を当てた作品)は、カイというキャラクターがトランス・アイデンティティを表現するストーリーラインを水の泡にした。ピクサー・アニメーション・スタジオを2006年に買収したディズニー社の広報担当者は、声明の中で「多くの親たちは、特定のテーマについて子どもたちのそれぞれの条件やタイミングに合わせて話し合うことを好むのだ」と述べた。
THRは複数の元ピクサースタッフに取材をしたところ、かれらは同社がこのストーリーを打ち切ったことについて悲しみと落胆を表明した。同時に、ディズニーのアニメーション映画が親の死(『バンビ』や『ライオン・キング』)やドラッグの使用(『アリス・イン・ワンダーランド』や『ピノキオ』)といったアダルトなテーマを含むことで知られていることから、ディズニーの当該の声明が明らかに皮肉であると指摘する人もいた。特に不満なのは、当該エピソードがすでに完成しているため、ストーリーの要素を調整するために、2月の公開に間に合わせるために制作チームを奔走させなければならないということ。そしてもちろんそのために出費がかさむことは言うまでもない。
「このエピソードの最終形はとても美しく、トランスであることの経験の一部をみごとに描き出していた。孤立して愛されていないと感じている人たちに、理解してくれる人たちがいることを示すことで文字通り命を救うことになるはずだった」と、このシリーズに直接関わったわけではないが、視聴したことがあり、匿名を希望した元ピクサー社員の一人は言う。
このインサイダーが指摘するところによると、先週SNS上に出回った(リークされた)時点の旧版の映像から大幅に変更されており、トランスのキャラクターがどちらのトイレを使うかを慎重に考えている様子が描かれていたという。「ですから、ディズニーがお金を使うと決めた選択が、命を救う方ではなかったことにフラストレーションを感じています。」
(なお、リークされた映像はこちらです。2025/1/2未明時点でまだ再生できます。)
🚨BREAKING🚨: Here's the entire now-removed LGBTQ+ scene from Pixar's Win Or Lose. https://t.co/oqovp3tueG pic.twitter.com/Bnh7dtwEpi
— Lost Media Busters | @lostmediabusters.bsky.social (@LostMediaBuster) 2024年12月17日
ピクサーの昨今の動向は、同社のプロジェクトの方向性や多様性を優先する意図があるのかどうかについての議論を巻き起こしている。同社が(2024年)5月にスタッフの14%を解雇したあと、2018年にジョン・ラセターの後任としてチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)に就任した『インサイド・ヘッド』の監督、ピート・ドクターは、同社の最新の目標についてのインタビューで眉をひそめた。
ピクサーはここ数年、少数ではあるが複数の作品が不振に終わっていることを踏まえて、ドクターはスタジオは「最も親しみやすい映画」を作るべきだと語った。そしてこの発言は、一部の人々には、社会的地位の低い(underrepresented)キャラクターや声を中心とした、より自伝的な物語からの転換を提唱していると受け止められた。
彼の発言は、フロリダ州における「Don’t Say Gay」法案に対するチャペック元CEOの対応が2022年に批判されたことを受けてのものだった。同2022年には、ピクサーの『トイ・ストーリー』のスピンオフ映画『バズ・ライトイヤー』(2022)に登場する同性同士のキスを巡って、右派のご意見番らが騒ぎを起こした。最近では、ディズニー・チャンネルのアニメシリーズ『ムーンガール&デビル・ダイナソー』の制作チームのメンバーが、トランスジェンダーのキャラクターを主人公にしたエピソードを公開しないことを決めたとソーシャルメディアに投稿し、話題となった。
「これは100%政治的なものです」とトランスジェンダーであると自認する元ピクサー社員は、『ウィンorルーズ』をめぐる決定について語る。彼は、ABCニュースが最近、ドナルド・トランプ次期大統領が起こした名誉毀損訴訟の和解金として1500万ドルを支払ったことを指摘している。「ディズニー社はトランプと和解したばかりです。我々は最近『ムーンガール&デビル・ダイナソー』のエピソードがカットされたのを目撃しました。『ウィンorルーズ』とこのキャラクターについて知っている我々は皆、次に私たちを攻撃しないでと歯を食いしばっていました。」
実際、ピクサーとつながりのある人々は、この『ウィンorルーズ』の変更が、作品におけるメッセージを後退させるという点において、これに限った問題ではないことを心配している。ディズニー社CEOのボブ・アイガーは2024年4月に「要するに、我々の映画やテレビ番組にメッセージ性を第一の優先事項として注入することは我々の目指すところではないのです。作品はエンターテイニングなものである必要があり、ディズニー社が世界にポジティヴな影響を与えることができるなら、それがあらゆるタイプの人々を受け入れ理解する力を育むことであるかもしれないが、素晴らしいことです。」
とある元ピクサーのアーティストによれば、体を入れ替えた人間とビーバーを主人公にした、ジョン・ハムが率いる2026年のピクサー映画『ホッパーズ(原題)』の制作チームは、環境保護主義(environmentalism)という予定されていたメッセージを強制的に控えめにさせられたと言う。
「残念なことですが、映画全体が環境保護の重要性を軸にしている場合、それを後退させることはできないのです」とこの映画に携わったアーティストは言う。「あのチームは、「このフィードバックに対してどう対応すれば良いのか?」を考え出すのにかなり苦労しました。」
社内で注目を集めたもうひとつのタイトルはエイリアンと協力関係を築く少年を主人公にしたオリジナル長編作品『星つなぎのエリオ』である。当初は2024年3月に公開予定だったが、2025年夏に延期された。『星つなぎのエリオ』の当初の監督であるエイドリアン・モリーナは芸であり、今年(2024年)はじめに同作を降板した。ドクターによれば、監督としてクレジットされるモリーナは、ピクサーの別のプロジェクトに異動したという。
一方、ピクサーは6月に『インサイド・ヘッド2』を公開し、その年の最高興行収入を記録した。
トランスジェンダーであるリガティッチは、5月に解雇されるまでの2年半に渡るピクサー在籍中、歓迎され大切にされていると感じていたと振り返る。彼女は、ディズニーが10代のトランス女性の俳優であるシャネル・スチュワートのストーリーを削除する決定を下したことを受け、エグゼクティヴ・プロデューサーのデヴィッド・ラリーを含む『ウィンorルーズ』のクリエイティブチームのメンバーと連絡を取り合っている。リガティッチはまた、このシリーズがかなり長い間完成しておらず、1年前に最初の公開が決まったあと、公開日が何度も延期されたことに不満を表明している。
「昨日、デヴィッドが(シャネルと)交わさなければならなかった会話のことを考えて、どれだけ泣いたかわかりません」とリガティッチは言う。「誰かに自分ではない誰かを演じるよう求めるだけでなく、自分にはとても納得しがたい政治的な議論を理解するように仕向けることなのです」とリガティッチ。
「かれら(ピクサー)はこのストーリーを2年間も温めていて、バイデン大統領時代に公開することもできたのにそれを選択しなかった。(スチュワート側は自身のキャラクターを作り直されたことについて「とても落胆した」と語っている。)」
リガティッチは、問題の『ウィンorルーズ』のエピソードで仕事をしたくないアーティストがいることを知っていると言うが、インサイダーはスタッフにはそのエピソードで仕事ウィ市内選択肢が与えられていたと指摘しており、今のところ誰もその申し出には応じていないという。
他のアニメーションスタジオがピクサーに追随して、クィアのストーリーラインやその他の多様な、あるいは二極化させうるストーリーテリングを制限する可能性があるかどうかはまだわからない。このため、リガティッチの同僚のピクサー出身者の一人は、社会的地位(underrepresented)の低い声を勇気づける独立系アニメーション・スタジオの立ち上げに取り組んでいる。
リガティッチは、Netflixのような場にはこういったアニメーションのストーリーの市場があると考えている。Netflix自体はLGBTQコンテンツの制作には力を入れていないかもしれないが、この分野において注目すべき買収を行っている。
「Netflixは本物の(authentic)LGBTQの物語を伝えるコンテンツを喜んで受け入れる。」とリガティッチは『ニモーナ』で今年のアカデミー賞にノミネートされたストリーミング配信会社についてこう語っている。トランスジェンダーの寓話として評価されたこの作品は、ディズニーが買収したブルー・スカイ・スタジオが2021年に閉鎖されたことでその拠点を失っていた。「これこそまさにこれからの動きです。多くのインディーズスタジオが物語を語るために登場することになるでしょう。」
【和訳終わり】
元記事:The Hollywood Reporter/ By Ryan Gajewski (Dec. 27, 2024 1:00PM)
Ex-Pixar Staffers Decry ‘Win or Lose’ Trans Storyline Being Scrapped: “Can’t Tell You How Much I Cried”