westergaard 作品分析

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アカデミー賞授賞式 特別パフォーマンス版 We Don't Talk About Bruno 歌詞・和訳!

はじめに

良くも悪くも異例の自体が連発した第94回アカデミー賞授賞式が米国時間2022年3月27日の夜に行われた。

長編アニメーション賞は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの記念すべき60作品目の『ENCANTO / ミラベルと魔法だらけの家』が受賞した。

そして今回の授賞式での楽曲パフォーマンスとして、ノミネートされていたわけでもなかったが(日本など一部地域を除いて)世界的に大ヒットし、2013年の「Let It Go」を上回るヒットとなったアンサンブルソング「We Don't Talk About Bruno」が披露された。


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そもそもこの曲がノミネートされなかったのは、ディズニー側がこの曲のヒットを予測できず、そもそもノミネート候補として提出していなかった背景があったという。(詳しくはコチラ https://variety.com/2022/awards/news/we-dont-talk-about-bruno-encanto-oscars-1235147940/ )提出していたのは同様にパフォーマンスが行われたもう一曲、Dos Oruguitasのほうだ。こちらも惜しくも賞は取れなかったが作品を象徴するナンバーで、Sebastián Yatraによるパフォーマンスは本編用のレコーディングのものほぼそのままのような歌声を世界中に生で届けてくれた。

もっとも、作曲家のリン=マニュエル・ミランダが、家族がコロナ陽性のために念の為に出席が不能になったという話は残念極まりないことであるが。

 

さて、物議を醸しているのは、We Don't Talk About Bruno が、「世界中のファンたちが望んだ通り」にパフォーマンスされなかったことだ。

もともと当初発表された際には、Adassa(ドロレス), Stephanie Beatriz(ミラベル), Mauro Castillo(フェリックス), Carolina Gaitan(ペパ) そして Diane Guerrero(イサベラ)というオリジナルの声を当てたキャストたちが歌うということだったので、誰もが映画のあの通りのバージョンを生歌で披露してくれるのだろうと思っていた。

しかし、実際にはペパとフェリックスの1ヴァース目を、CastilloとGaitanで歌い始め、そこにAdassaとBeatrizとGuerreroが加わる形で歌った後は、Megan Thee Stallionによるラップパートがしばらくつづき、その後 ドラマーのSheila E.の演奏がフィーチャーされながら、 Becky G と Luis Fonsiが入場してきて最後を飾るという構成になっていた。

Megan やBecky G、Luis FonsiやSheila E.ファンなら、かれらがヒット曲ブルーノを歌ってくれたという大サービスとして受け取っただろうが、すべてのエンカントファンがかれらを知っているわけではないだろう。

またMeganがラップし始めて以降、変更されていた歌詞が聞き取れなかったという人もいるだろう。ということで、本記事では歌詞の内容の和訳と、かれらが何者なのか、どんな関係があったのかを軽くまとめたいと思う。

歌詞だけパッと見たい方は、ざっとスクロールして下へ!!

(ちなみに、今の所映画版を実際のキャストが全員で生で歌ったことのが確認されているのはフランス版だけだ。これは映画公開前か公開時のイベントとして行われたもののようで、フランスではこの曲のヒットが予見されていたかのようだ。残念ながら、その動画は消されてしまい、2022年3月末現在視聴できなくなっている。)

 

ゲストとして歌ってたあの人たちは何者? ブルーノと何の関係があるの?

まず一人目

Megan Thee Stallion(メーガン・ジー・スタリオン)はラッパーでヒップホップミュージシャン。2020年にはビヨンセをフィーチャーした「Savage Remix」や、カーディBと出したシングル「WAP」で全米ナンバーワンヒットを記録したアーティストだ。


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彼女は自身の主張によれば、祖母が基本的にメキシコ人だ(basically Mexican)としていて、それゆえ彼女がブラックメキシカンである、ということになっている。つまりENCANTOで描かれたコロンビアがそうであったように、ラティーノの中のミックスルーツのアーティストで近年注目を浴びた象徴的なひとりとして抜擢されている可能性が高い。

またラップをブロードウェイに持ち込み、その功績からディズニーアニメーションへもラップミュージカルを持ち込むことになったリン=マニュエル・ミランダの功績を考えればディズニー作品の曲のパフォーマンスでラッパーが起用されるということの意義も大きいように思える。

ちなみにドロレスの声を努めた Adassaは、レゲトン(Reggaeton)シンガーであるとされている。レゲトンとはレゲエ+メガトンでヒップホップやレゲエ、R&Bベースの曲にスペイン語のラップが乗るスタイルで、80年代から90年代にアメリカのヒップホップから影響を受けたプエルトリコ人が生み出したとされている。まさにプエルトリコ出身のリン=マニュエル・ミランダソングのルーツのひとつだろう。ちなみにディズニー関係でいうと、ズートピアのガゼル役のシャキーラレゲトン歌手であると分類されることがある。

Becky G.(ベッキー・G)は、シンガーソングライターで、英語とスペイン語の2言語で歌うポップ歌手であるとともにラテン歌手でもある。


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2014年の「Shower」が大ヒットし、Billboard Hot 100で16位を記録したことで有名になった。2016年からラテン音楽もリリースするようになり数々のコラボ曲で中南米の国々でも特に良い反響を得ていたという。とにかくラテン系のポップ音楽の世界における期待のスターであるというのが抜擢の理由だろう。ちなみに彼女の両親もまたメキシコ系アメリカ人だ。

Sheila E.(シーラ・Eはドラマーで、70年代から活躍していた長いキャリアのアーティストだ。父親はメキシカンでラテンパーカッション奏者であるという。


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母親はフランス系とアフリカンのクレオールでシーラ自身もまたミックスルーツのラティーノだ。

Luis Fonsi(ルイス・フォンシ)が選ばれた理由は明確だ。
彼もまたプエルトリコ出身で、2020年10月に初めて再生回数が70億回を突破したミュージックビデオとなった「Despacito」をリリースした事で有名だ。スペイン語の曲としては1996年以来はじめて Billboard Hot 100 で1位となった曲であり、結果振り返ってみれば「ブルーノ」がヒットする背景となった、アメリカにおける「ラテンポップ」ブームの土壌を整えていたアーティストと言っても良いほどだ。


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ということで共通しているのは、ミックスルーツのラティーノか、ラテン系アメリカ人の二世といったエスニックバックグラウンドや、ラテン音楽やラテンポップのスター的存在といったところだ。つまりブルーノそのものをパフォーマンスするよりも、これまで存在していたにもかかわらず、これほどまでに大々的な社会現象になるほどにまでフィーチャーされることがそうそうなかったラテン系音楽のアーティストたちをブルーノの世界的(日本は除く)ヒットを機に取り上げてセレブレートしよう!という意図が背景にあったようだ。

このことはここ数年のハリウッドの変化を見ていれば納得のいくことであり、社会的な文脈を踏まえている妥当な選択であろう。

ということで、「この人だれ?ブルーノとなんの関係があるの?」と思った方はぜひかれらの楽曲もYouTubeなどで聴いてみると、より一層ENCANTOの音楽のルーツを知ることができるのではないだろうか。

 

変更の加えられた 歌詞・和訳

[Carolina Gaitan (Pepa)]
We don't talk about Bruno, no, no, no
We don't talk about Bruno
(触れちゃダメ ブルーノのことは)
We don't talk about Bruno, no, no, no
We don't talk about Bruno, hey! But!
It was my wedding day
(触れちゃダメ ブルーノのことは ヘイ!でも
 あれは私の結婚式の日)
 

[Mauro Castillo (Félix)]
It was our wedding day
(結婚式の日)

[Carolina Gaitan (Pepa)]
We were getting ready
And there wasn't a cloud in the sky

(準備してたときは 雲ひとつない晴れだった)

[Mauro Castillo (Félix)]
No clouds allowed in the sky
(雲ひとつない晴れじゃなきゃいけなかった)

[Carolina Gaitan (Pepa)]
Bruno walks in with a mischievous grin
(そこにブルーノがニヤリと現れて)

[Stephanie Beatriz (Mirabel)]
Thunder!!
(雷ドッカーン!!)

[Carolina Gaitan (Pepa)]
You telling this story or am I?
(あんたが話すの?それともわたし?)

[Mauro Castillo (Félix)]
I'm sorry, mi vida, go on
(ああごめん きみが続けてよ)

[Carolina Gaitan (Pepa)]
Hey!
(ヘイ!)


[Adassa (Dolores)]
Bruno says, "It looks like rain"
(ブルーノが言うの「雨のようだね」と)

[Stephanie Beatriz (Mirabel)]
Oh, why did he tell us?
(もう なんでそんなこといったの?)

[Adassa (Dolores)]
In doing so, he floods my brain
(そうして私の頭は 雨のことで溢れた)

[Stephanie Beatriz (Mirabel)]
Abuela, get the umbrella
(ばあちゃん 傘をもってきた)

[Diane Guerrero (Isabela)]
Married in a hurricane
(ハリケーンの中での結婚式)

[Mauro Castillo (Félix)]
What a joyous day, but anyway
(楽しかったけど まあなんにせよ)


[ALL]
We don't talk about Bruno, no, no, no
We don't talk about Bruno
(触れちゃダメ ブルーノのことは)

[Carolina Gaitan (Pepa)]
Hey!
(ヘイ!)

[Megan Thee Stallion]
Every day all the kids wanna hear "Bruno"
(毎日 子どもたち「ブルーノ」聞きたがる)
Bruno this, Bruno that, it's a new "Let It Go"
(これもブルーノ あれもブルーノ まさに新レリゴー)
Oh my god, Lin, you see what you have done?
(まじかよ リンさん ナニしでかたかわかってる?)
On Hollywood's biggest night, best in all of cinеma
(このハリウッドの大事な夜に 映画界の最高の夜に)
Magic everywherе, stars everywhere
(魅力に溢れ スターに溢れ)
I need to see Oscars, Zendaya over there
(オスカー像みなきゃ ゼンデイヤもいるし)
Oh, no, we got three hosts
(あら まあ ホストは3人*もいるし)
※今年のホストは3人とも女性:レジーナ・ホール、エイミー・シューマー、ワンダ・サイクス
These women are the best and they killing all the jokes
(彼女らは最高 どのジョークもキマってる)
So many nominees, all of them are nervous
(たくさんの候補者 誰もが緊張)
I've seen all the envelopes, they're behind the curtains
(受賞者の書かれた紙の入った封筒みたよ カーテンの向こうに)
Party like a hottie, got Versace on my body
(いかした女性らしく盛り上がって ヴェルサーチの服身につけて)
I ain't talkin' bout, yeah, I'm talkin' all money
(話してるのは そう カネのこと)
Believe I'm up next, I'm coming for that gold
(信じて私の次の出番 その金ピカ目当てで来てやるの)
You can add it to my shelf, Academy Award
(うちの棚に加えなきゃ アカデミー賞を)
Oh no, it's time for the show
(あら まあ ショーの時間だったわ)
Young Tina Snow, don't talk about Bruno (Ah)
ティナ・スノー* もブルーノには触れないよ!)

※メーガンが2018年に出してトップ10にランクインしたミックステープのタイトルが「ティナ・スノー」だった

 

[Becky G and Luis Fonsi]
We don't talk about Bruno, no, no, no
We don't talk about Bruno
(触れちゃダメ ブルーノのことは)

Where everyone can unite (And I see Denzel)
(誰もが一つになれる場所)デンゼル・ワシントンさんがそこにいるね)
It's finally Oscars night (Shout out to Lin-Manuel)
(ついにオスカー授賞式の夜)(リン=マニュエルに向かって叫べ)
Three women host now that's the way (They would make any full pay)
(3人の女性ホスト こうでなくっちゃね!)(ギャラはしっかり払われるだろう)
<赤字箇所は、音楽が大きすぎて聞き取りに自身がありません。なお情報提供ありがとうございました Twitter @peppermint0108 さん>

We're here to celebrate Oscars
(We're here to celebrate Oscars)
(オスカー授賞式をお祝いしよう)

We're here to celebrate Oscars
(We're here to celebrate Oscars)
(オスカー授賞式をお祝いしよう)

Academy Award
Celebrate tonight!
アカデミー賞を 祝おう今夜!)

 

 

 

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ということで、ブルーノの曲が頭の中から離れないという「症状」をお持ちのみなさんには、とっておきの特効薬をご紹介してこの記事を終わりにしたいと思います。
その名も ENCANTIX です。(※ジミー・キメル・ライブのネタ動画です笑)

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