westergaard 作品分析

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日本の「ディズニー」における「レインボー」の "政治性脱色化" ?!(ディズニーストアとディズニーリゾートのレインボーグッズの間の決定的な違い)

 

はじめに

小学校の3年生までの授業で、性的指向性自認に関する話題を取り上げることを規制する」法案、通称「Don't Say Gay Bill (ゲイと言ってはいけない法案)」がフロリダで可決され、それに伴ってディズニー社(広義)内で色々な事件が立て続けに起こってきた。挙げ句の果てにはフロリダ州は、ウォルトディズニーワールドに対して特別に認めている「自治権」を剥奪する法案を通してしまうなど騒がしい。

そんな中迎えた4/22-24の東京レインボープライドの週末。コロナ禍なのもあって2年ぶりにパレードが物理的に開催されることになる。

当ブログの筆者 westergaard は、4/22金に東京ディズニーランドと舞浜イクスピアリのディズニーストアに行って、双方の「レインボーグッズ」なるものを見てきたが、両者にかなり顕著な差が見られたということで、この週末に際して一本書いておかねば、ということになった。

もちろん前提としてPRIDEやLGBTQ+に関する政治的な運動を「利用」する商品化がいかがなものかという問題があるのは認識しているが、その商品化されたビジネスをする上で、どのように振る舞っているかというのをこの記事の焦点としたい。商品化の時点でダメだという一辺倒な切り捨て方は、まずここでは一旦はしないことにする点、ご承知いただきたい。

時は5年遡る。

 

東京ディズニーリゾート:2017年のレインボーシャツ / 当時の海外パーク

2017年4月下旬、パークで販売されたのが、5キャラ分のシャツを並べると虹がかかるというレインボーTシャツだった。このレインボーシャツには、いわゆる日本の文脈における虹の認識としてひろく共有されているような「7色」で虹が描かれていたし、PRIDEやLGBTQ+コミュニティの象徴のカラーとしてのレインボーであることが明記されてはいなかった。
しかし、これが発売されたのは2017年の4/21金で、その年の東京レインボープライドは4/29から開催だった。偶然にしては出来過ぎている。

mezzomiki.jp

そもそも2017年時点で、海外のディズニー直営パークスにおいてはPride Monthが祝われており、ピンバッジをはじめとする公式のPRIDEグッズが展開されていた。

www.popsugar.com

アメリカのディズニーランドでは1990年代から GAY DAYS が、ディズニーランドパリでは2014年から MAGICAL PRIDEが、それぞれ非公式に祝われてきた。

イベント自体は非公式だったが、それでも多少なりともレインボーカラーのグッズがPRIDEと関係する形で展開されることも増えていき、2018年には公式でPRIDEのためのレインボーからのミッキーのイヤーハットが販売され、2019年にはディズニー系列のテーマパークで初めて公式にLGBTQコミュニティーを祝うイベントを開催するに至った。その後もディズニーの公式グッズ販売サイト shopDisney や Disney Parks ではPRIDE月間には多くのレインボーグッズが出て、その収益がLGBTQ+コミュニティの支援につながるキャンペーンが展開されるようになってきていた。

www.orlandosentinel.com

www.mic.com

www.huffingtonpost.jp

 

日本のディズニーストア:2021年のPRIDE Collection

日本のディズニーストアは、東京ディズニーリゾートを運営しているオリエンタルランドとは(今は)全く関係なく、ウォルト・ディズニー・カンパニー(米国本社)の日本法人ウォルト・ディズニー・ジャパンが展開する実店舗だ。

日本のディズニーストアでは、2021年に初めて、グローバルで展開する LGBTQ+コミュニティへの支援の動きの一環として、THE WALT DISNEY COMPANY PRIDE COLLECTIONを初めてリリースした。日本では売り上げの一部が、認定NPO法人『虹色ダイバーシティ』に寄付をされることもプレスリリースで報じられた。

prtimes.jp

しかし、実際の店舗では、「RAINBOW COLLECTION」として看板が掲げられ、小さくLGBTQ+コミュニティの支援へ寄付がなされるということが表記されているだけであった。つまり基本的には「レインボーカラーなグッズ」として訴求しているのがあくまでメインで、それが「PRIDE」に関係しているかどうかは細かい説明まで読むか、文脈を既に知っていない限り店頭でのゲストには伝わらないようになっていた。

またSNS上では、次のように発信していた。

確かにここには「Pride Collection」と明記はしているものの、「レインボーカラーがとっても鮮やか」という表現で、あくまでレインボーなグッズであり、LGBTQ+コミュニティとの関係性については全く触れられていない。絵文字の選び方も「虹」のアイコンであり、「レインボーフラッグ」のアイコンではないものが使用されている。

このグッズが展開されていた2021年4月には、ツイッター上でこのことや実店舗での説明の不足についての指摘が一定数見られた。批判のポイントは、LGBTQ+コミュニティへの支援というある種政治的な意味合いが「脱色化」されていることだった。そういった人権に関する政治的な話はサニタイズし、「純粋無垢な」レインボーカラーの鮮やかなグッズですよ、という風に見せていることが、PRIDEグッズとして展開している意義を骨抜きにしてしまうのではないかという指摘だ。もちろんPRIDEに関係なく「レインボーからの鮮やかなグッズ」として買った人の落としたお金の一部も寄付されることになっていたとしても、だ。

 

日本のディズニーストア:2022年のPRIDE Collection

1年後の今年、ディズニーストアとオンラインのshopDisneyで扱われる2022年のプライドコレクションの取り扱い方には少し変更が加えられた。

まずツイッターでの発信が変更されて、LGBTQ+の社員が中心となって企画されている(これは米国本社でのことだろうが)ことが明記され「すべて人が自分らしく、輝ける世界へ」というメッセージが添えられた。(ただし相変わらずレインボーロゴはあくまで虹でありレインボーフラッグのアイコンには変更されていないし、また寄付についてはこのツイートだけでは、サイトに飛ばない限りわからない仕様だ。)

 

寄付先となる組織がかなり詳細に紹介されているし、https://twdcpridecollection.com/apac/twdcpridecollection_japan_ja.pdf

購入用のWebページにおいても明確に「すべての人が自分らしく、輝ける世界へ」と書き(これが十分かどうかは議論の余地があるが)、明確にLGBTQ+コミュニティへの支援の一環であることがわかるようにページトップに文章が添えられている。

shopdisney.disney.co.jp

また店頭においても、2021年の「RAINBOW COLLECTION」という政治性を脱色化した書き方ではなく、はっきりと  PRIDE COLLECTION であることが伝わるような表記に変更されていた。

また、商品の横に添えられたインフォメーションボードは前年よりも大きくなり、説明の文章こそそこまで詳しくなったわけではないが、アクティヴィズムと連動していることがひと目でわかるような画像が添えられるようになったことは変化した点だ。

また、この画像は2021年の様子の画像と同じ、東京ディズニーリゾートのある舞浜のイクスピアリ内のディズニーストアで撮影したものだが、同じ店舗でも扱う面積が前年より大きくなっているのもひと目でわかる通りだ。販売初日2022年4月22日、東京レインボープライド2022の初日に撮影したものだ。

前年のSNS上の批判がどの程度の影響力を持ったかは不明だが、このようにディズニーストア実店舗とウェブショップ、そしてSNSでの広報において、政治性の脱色度合いが多少ではあっても確実に薄くなったことが見受けられた。

 

東京ディズニーリゾート:2022年のレインボーグッズ

一方、同じに日にインパークして撮影した東京ディズニーランドの最大のお土産店、グランド・エンポーリアムの様子がこちらだ。

そう、またしてもPRIDEと関係あるとは書かれていない、けれども謎にレインボーなグッズが「たまたま」4月後半に販売されている。こちらの販売日はストアのPRIDE COLLECTIONの発売の前日、2022年4月21日にリゾート内で発売された。東京レインボープライド2022のまさに前日だ。

グッズを寄りで見てみる。

ご覧の通り、またしても5年前のシャツと同じだ。

  • PRIDEと関係あるとは全く言及されていない
  • 寄付とも関係ない
  • レインボーフラッグの6色ではなく、あくまで虹の7色である
  • けれども「たまたま」東京レインボープライドの直前に発売された

最後の画像のメインアートを見てもわかるように、正直言って「Tokyo Disney Resort」の文字の収まりからいっても、帯になっているリボンのデザインは6色の方が良さそうなデザインだ。笑

 

もちろんキャラの数が7だから7色にしたのだし、虹は日本では7色が普通だから7色なんだ、ということもできるしそれは自然なことだ。また虹色はハッピーな色で、鮮やかな色のグッズを出すことと、PRIDEなんて必ずしも関係ないのだし何でもかんでもLGBTQ+に結びつけるんじゃない!という意見も当然あるだろう。

だったら、年中売ればいいのではないか? 別に4月に合わせる必要ないよね?というのも一方で言えないだろうか。

 

ここには大きな問題が潜んでいる。

 

第一に、2021年のストアと決定的に違うのは、2021年のストアが「寄付はする」けど「売り場で明記しない」だった一方で、2022年のディズニーリゾートは「寄付もしない」し「あくまで関係ない」としつつも「PRIDEグッズかのように見えなくもない」という状況であることだ。

 

もちろんこれは「PRIDEグッズではない」から「寄付をしないこと」が責められる正当な理由はないし、「売り場で明記しない」ことも責められる根拠は全くない。それでも、パークを出てイクスピアリのストアに行けば、あるいはパークに来る前に地元のストアによれば、そこではPRIDEグッズとしてLGBTQ+コミュニティへの寄付が行われる「ディズニーグッズ」が展開されているのだ。時を同じくして、「たまたまレインボーなグッズ」がパークで並べられていて、別にそうであると名言はしていなくても「まるでPRIDEグッズかのように見える」ものが完全に政治性を脱色した形で置かれている状況には、問題意識を覚えずにはいられない。

 

しかし同時にこの状況は、「PRIDE」や「レインボー」が「強い政治性を持つもの」として見られている日本の文脈の表れだ、とも捉えられる。
パークが「まるでPRIDEに被せているかのように見える」にもかかわらず「あくまでPRIDEとは関係ない」としながらもレインボーグッズを展開することの背景にある意図がはっきり明かされることはないが、推察するに、「現実の世界の政治問題を持ち込みたくない」というロジックがどこかの意思決定で働いている可能性がある。つまり、少なくともOLCの考えの中では「PRIDE」や「レインボー」に「政治っぽさ」があることが含意されていて、その政治性を持ち込みたくない、というロジックが働いているとする。そうなるとむしろ「PRIDE」や「レインボー」は過度に脱色化されているわけではないという、認識があるということになるわけだ。

何でもかんでも消費の対象にして/されてしまうという意味で「PRIDE」や「レインボー」自体が「政治的に脱色化されている」ことが批判されることのあるアメリカなどの文脈とは、ここが異なるのかもしれない。

どちらにしても、レインボーグッズをこのタイミングで出すのにもかかわらずPRIDEとまるで関係ないようなフリをしつつ、しかも実質的にはなんら支援をするわけでもないOLCは、このレインボーを象徴として掲げ、現行の社会制度や社会的認識において虐げられている自らの人権について主張するこの政治的な運動を嘲笑い、そこにフリーライドして利益を上げようとする行いとして批判的に見られても全くもって仕方がない行為であることを、OLCのいち消費者としてここに指摘しておきたい。

また消費者の声の影響がどこまであるかはわからないが、一年で取り組みの姿勢を変えたウォルトディズニージャパンの運営するディズニーストア並びにshopDisneyについては今後も今年のようなスタンス、あるいはさらにもっと踏み込んだ形でPRIDEに取り組んでいくことを期待したい。

 

 

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