westergaard 作品分析

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【コロナ禍で終了】なぜライオンキングでもアラジンでもなくブローズンが?! Broadway Frozen アナと雪の女王ブロードウェイ

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Elsa is no match for Corona…

米国時間、2020年5月14日。

ニューヨークタイムズに次の文章で始まる記事が掲載されました。

「たとえクイーン・エルサの魔法をもってしても、コロナウイルスパンデミックには敵わなかった。(Even Queen Elsa's magic is no match for the coronavirus pandemic.)」

映画ファンの方は、この文章が1作目の裏切られたアナがハンスに言い放つ「You're no match for Elsa.(あんたはエルサに敵わないわ)」を思い出すのではないでしょうか。

www.nytimes.com

 

本ブログは、ブローズンこと、ブロードウェイ版ミュージカルのFrozen:アナと雪の女王の歌詞分析、作品分析を主なトピックとしてスタートしましたが、残念ながらこの新型コロナウイルスパンデミックの影響を受け、アメリカ時間5月14日にディズニーシアトリカルプロダクションはコロナが落ち着いても、再演はしないという決定を発表しました。

ブロードウェイの演目は、2020年3月11日より公演を休止し、その後何度にもわたって休演期間の延長をアナウンスし、ブローズンも9月までの休演がアナウンスされたばかりでした。

本記事では、New York Timesに掲載された記事の内容を参考に、休演から終演という判断に至った経緯についてまとめておきたいと思います。

(こちらが当ブログの最初の記事↓↓↓)

ikyosuke.hatenablog.com

 

ブローズンの歴史

2013年11月 Frozen(アニメーション映画) 全米公開

2014年 1月 ロバート・アイガーCEOが Frozenの舞台版が準備中であると発言

2017年 8月 Denverで、トライアウト公演がスタート

2018年 2月22日 New York St. James Theatre でプレビュー公演スタート(『ブローズン』)

2018年 3月22日 New York St. James Theatre で正式公演スタート(オリジナルキャスト)

2018年 4月3日 当ブログ著者 westergaardが初観賞(←超個人的)

2019年 2月19日 2019年度の新キャストによる公演スタート(ブローズン2019キャスト*1)

2019年11月 北米ツアー公演スタート(私の呼び名『ツアーズン』)

2020年2月18日 2020年度の新キャストによる公演スタート(ブローズン2020キャスト)とともに、ツアー版の新演出、新曲、一部曲のカットが適応される*2

2020年3月11日 新型コロナウイルスパンデミックを受け、公演休止

2020年5月14日 度重なる「公演休止期間延長」のアナウンスの後、3月11日の公演をもって終演したとすることを発表。

 

※1)2019年度新キャストについてはこちら

ikyosuke.hatenablog.com

※2)2020年度新曲、新演出についてはこちら

ikyosuke.hatenablog.com

 

Short History of Disney on Broadway:ディズニー舞台版ミュージカルの歴史

ディズニー社と一口に行ってもその下の構造は非常に複雑です。

皆さんがよく耳にするような部署をまとめてみました。

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ブロードウェイの公演を司っているのは、The Walt Disney Company下のStudio Entertainment: The Walt Disney Studiosの、Disney Theatrical GroupのDisney Theatrical Productions(DTP)です。

ややこしいでしょ?笑

ちなみに劇団四季はこのDTPとパートナーシップを結んで、ディズニーの舞台作品の日本語版アダプテーションを公演しています。

 

さて、DTPによるブロードウェイでの公演ははじめは、Beauty and the Beast美女と野獣でした。

1991年に公開されたアニメーション映画『美女と野獣』があまりに素晴らしく、「まるでブロードウェイミュージカルのようだ」という批評が相次いだことを受け、当時のCEOマイケルアイズナーが実際にブロードウェイのミュージカルプロダクションにする判断をしてしまった、というのがその始まりでした。

1993年にHoustonでトライアウト公演をしたのち、1994年にはブロードウェイで。1995年にはLos Angeles, Melbourne, Toronto, Vienna, 北米ツアー、そして劇団四季が東京で公演開始するなど世界展開。2019年はこの、Disney on Broadwayのスタート(1994)から25周年ということで記念の公演や特番の放送が(アメリカでは)たくさん行われました。

 

1994年 Beauty and the beast(2007年7月に終演)【13年】
1997年 Lion King(ロングラン中)【23年】
1999年 The Hunchback of Notre Dame(2002年終演)<ベルリンのみ>【3年】
2006年 Tarzan(2007年7月に終演)【1年】
     Mary Poppins(2013年終演)【7年】
2008年 The Little Mermaid(2009年8月に終演)【1年】
2014年 Aladdin(ロングラン中)【6年】
2018年 Frozen(2020年3月終演)【2年】

に至るまであらゆる公演がスタートしては終演してきました。(この他にもいくつかの演目がありますが、今回は割愛)

こうしてみると、20年以上ロングランしている Lion King がどれだけ強いコンテンツかがよくわかりますね。

逆に、日本でロングランしている、リトルマーメイドや美女と野獣がブロードウェイではとうに終わってしまっていることや、リトルマーメイドの短さに驚かされたのではないかと思います。

 

劇団四季とDisney on Broadwayの違い

これは色々な違いがありますが、今回のブローズン廃止に関係する部分だけ取り上げます。

1)シアター(劇場)は専用ではなく契約。

2)キャストやスタッフは専属ではなく年契約。

3)チケットは変動相場制、公式公認のリセール(転売)あり

まず、劇団四季は劇団として専用の劇場や劇団員を抱えていますが、ブロードウェイというのは、シアターや役者は独立していて、プロダクションが作品ごとにシアターを契約したり、役者やスタッフを年契約で雇っています。すべてが作品ごとです。

ディズニーの場合はプロダクションが同時並行的に複数の作品をあちこちの劇場で、またツアー公演や海外公演を行なっている状況になっているわけですが、シアターを所有しているわけでも、専属の役者がいるわけでもありません。

このため、現在のようないつまで公演が再開できないかわからないという状況では、永遠と借りているシアターや役者はじめスタッフへの契約料を支払い続けねばならなくなります(現在のコロナ禍で、演者をはじめとしたスタッフへのお金がどうなっているのかは不明)。

2020年時点でDisney on Broadwayは、ロングラン中の Lion King、Aladdin、Frozenの3本立てて運営していました。

この他にDTPは、北米ツアー版のFrozenやAladdinなどを運営しており、ロンドンのウェストエンドや、オーストラリアなどでも直営で公演を行なっていますし、今後ローンチするための公演準備にもお金をかけているはずです。

これらはすべてコロナ禍で休演していますから、維持費に相当なコストがかかっていると想定されます。その一方いつまで休演を余儀なくされるかわからない状況が続いています。

今回、新キャストに切り替わってから一ヶ月もしないうちに休演になり、その後終演という扱いになったことから、2020年度キャストやスタッフの1年分の契約金が支払われるとは私は思えません。ですから、彼らは実質このFrozenからの収入はなくなってしまう可能性すら危惧されますが、正確なところはわかりません。しかし、劇団ではない作品ごとの契約を行なっているブロードウェイではこのようなことが起きているわけです。

 

さらにチケットは変動相場制です。S席、A席、B席のような大雑把な区分けではなく、エリアの中でも微妙な位置によって価格に差があったり、さらには購入する時期によって同じ席でも値段が変動します。年末年始などは高くなりますし、逆にギリギリになっても空席がある平日などは、価格が急に低くなったり、プロモーションコードでキャンペーン価格で席が手に入ったりします。ちなみに私はNYで生活していた時、こういった良い席なのに値段の下がったチケットをうまく手に入れて、何度も通っていました。

さらに公式が認める転売が存在します。これは一度個人が購入した座席をリセールと言って売りに出すことができ、売れた場合には個人にお金が入るという仕組みになっていて、購入時よりも高い値段をつけることも低い値段をつけることもできます。ただし売れなかった場合は、売りに出した人の負担になる仕組みです。これにより、年末年始は先に押さえて転売されることも多く値段が極端に吊り上がることもあります。

 

なぜブローズンがお取り潰しになったのか?

端的にいって、理由は現在ブロードウェイで上演されているDisney on Broadway の3作品のうち、ブローズンが最も収益が低かったから、です。ライオンキングと、アラジンの公演を継続するために、シアターの契約などを続けていくには最も収益率の低いブローズンを切らざるを得なかった、というのが正直なところのようです。非常に残念ですが。

NY Timesの記事では、ブローズンは26億〜30億円ほどかけて製作されていると推測されており、2018年に初演の際はかなり期待をされていたが、評論家からは厳しい評価を受け、ピーク時期には2.7-2.8億円/週ほどの収入を上げたが、この2月には1億円/週ほどに落ち込んでいた、と。

これは、先に書いたようにチケットが変動相場制であることが関係していると思います。需要が高まれば、最初に公式が売る価格自体が吊り上げられますから、収入は多くなります。

しかしあまりに席が余っている場合は、公式が値段を下げられる最低まで下げます。その上転売すらされず、公式価格のまま誰も買わずにその座席が残れば、収益は減少します。

2月にキャスト変更直後に観にいった友人が3階席(Balcony)がガラガラだった、という証言も私のツイートへのリプライで来ていましたから、このNY Timesに書かれている売り上げの落ち込みはそう言った形で目に見えて現れていたのかもしれません。

 

確かに、私がみていた限りでは2018年の年末も2019年の年末も確かにブローズンより、アラジンの方が値段は高くなっていました。このことからもアラジンの方が「人気があった」ことは推察されます。

NY Timesの記事では、こうした人気の落ち込みから、コロナ収束後も集客が以前のようなピーク時に戻ることは難しいだろうということが今回の終演判断を後押しした一つの理由だったようだと書かれている。

また、今ブロードウェイ公演を終演すれば、一部の小道具や衣装などが、現在準備が進んでいるロンドンやオーストラリアなどでの公演に再利用できるということも指摘しています。

 

端的にいうと、収益率の低さと、今終演することで一部のリソースを効率的に再利用できるから、とまとめられます。

 

おわりに

現在公式ウェブサイトを見ると、ブロードウェイ公演の情報はキャスト情報含め跡形もなく消され、一切見られなくなってしまっています。

残っているのは北米ツアーの情報です。北米ツアーも中止になっていますが、現時点においてはコロナ収束後にツアー公演のみなんとか継続する予定のようです。

 

途中に見たDisney on Broadwayの歴史を振り返れば、ブローズンは消して極端に短かったわけではありません。むしろ、ライオンキングが長すぎるのです笑

また日本の劇団四季は、ブロードウェイのようにどんどん新作が登場してくる競争の中にさらされているわけではないことや、専用劇場や劇団員が存在することからあれだけロングランができる特殊な状況にあることも、逆に浮かび上がってくるのではないでしょうか。

もちろん、日本でこの秋から始まるはずだった劇団四季による公演も延期され、チケット販売開始時期についてのアナウンスも夏にされるとなっていますが、それもいつまで待たされるかわかりません。でも幸いまだ全くなかったことになる、という決定はされていません。

 

今回は非常に残念なニュースとなってしまいましたが、この2年少しのブロードウェイでの公演期間に幸運にも見にいくことはできた皆さんはラッキーだったということで、またその間に私のブログが少しでも役に立ったと思っていただけたなら嬉しい限りです。

 

私は、2020年度版の新キャストと新曲、新演出を観るために2020年3月に渡航すべくあらゆる手配をしていましたが、私が向かう前の3月11日に「最終公演」を終えてしまったため残念ながら見ることなく終わってしまいましたが、劇団四季で I Can't Lose You が聴ける日が来ることを祈っております。

 

それではまだ大変な時期が続きますが、心の中では Let the Sun Shine Onし続け、日のひかりを浴びながら歩き出せる日を希望を持って待ち続けましょう!

 

これを機に、Disney Broadway Frozenのオリジナルサウンドトラックを購入した!という方はぜひこちらの一連のブローズン歌詞分析記事をご参照くださいね。

 

ikyosuke.hatenablog.com

 

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こんな本もあります。おすすめです ↓↓↓

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