21. Finale / Let It Go
位置付け
アナが自身の姉への愛の行為(An Act of True Love)によって自分の凍りついた心を解かしたあと、エルサはアナからの愛と自分の心の中にあるアナへの愛に気づき、二人でてを繋いで一緒に手を(舞台縁を覆っているの)柱にかざすと、二人が触った部分から凍りついたアレンデールが氷解していきます。
クリストフはアナに向けて「You're amazing!! May I kiss you?」と申し出て跪きます。アナは映画と同じように「We may」と言って二人はキスをします。
起き上がってくるハンスをアナが右手パンチで処理し、エルサはみんなに怪我がないか確認します。
ここからフィナーレの曲が始まります。
歌詞と対訳
[Elsa]
Is everyone alright?
みんな無事かしら?
[A Man]
We are, your Majesty.
はい、陛下。
[Duke]
Rest assured.
ご安心ください。
[Elsa]
There's so much I've longed to say
ずっと言いたかったことがたくさんあるの
[Anna]
Then say it all, beginning with today
なら言ってよ、今日から始めればいいのよ
[Elsa]
It's like a dream
まるで夢のよう
I thought could never be
現実になると思ってなかった
[Anna]
Elsa! You're free
エルサ!もう自由なんだよ
Let it go, let it go
Show us what you can do
何ができるのか見せてよ
[Anna, Kristoff & Olaf]
Let it go, let it go
[Elsa]
The magic one is you
魔法なのはアナ、あなたよ
'Cause here we stand
だってこうしてここに一緒に立ってる
In the light of day
陽の光の当たる中
Let the
陽よ照らせ
I take this warmth within and sending up above
この内なる温もりを天高く送り上げ
[Elsa & Anna]
Goodbye to dark and fear let's fill this world with light and love
暗闇や恐怖には別れを告げて この世界を光と愛で溢れさせ
[Elsa, Anna, Kristoff & Olaf]
And here surrounded by a family at last
そしてようやくここで家族に囲まれて
[All]
We never going back
決して戻らない
The past is in the past
すべては過ぎたこと
Let it go, let it go
And we'll rise like the break of dawn
日の出のように立ち上がり
Let it go, let it go
The fear and cold are gone
恐怖と寒さは消え去った
Here we stand
ここが私たちの居場所
In the light of day
陽の光の当たる中
Let our true love grow
私たちの真実の愛を育ませよう
Let it go
解釈と解説
ブローズンで追加された新曲の中で一番私が好きな曲がこれです。
[Elsa]
Is everyone alright?
みんな無事かしら?
[A Man]
We are, your Majesty.
はい、陛下。
[Duke]
Rest assured.
ご安心ください。
ここでわかるように、ブローズンでは映画と違って、ウェーゼルトン公爵は取引を拒否されることも追放されることもなく、ハンスのみがアナによって始末されます。エルサ陛下は映画よりも寛大になっています(笑)。
ここからは、Let It Go の「Do
[Elsa]
There's so much I've longed to say
ずっと言いたかったことがたくさんあるの
[Anna]
Then say it all, beginning with today
なら言ってよ、今日から始めればいいのよ
[Elsa]
It's like a dream
まるで夢のよう
I thought could never be
現実になると思ってなかった
今日から始めればいいのよ、というアナの優しさとポジティヴさもグッと来ますが、エルサは、「Dangerous To Dream」で歌われていたように、自分が自由になってアナと一緒になれるっと「夢見ることすら危険」と思い込まざるを得なくなっていただけに、ここの一言一言はずっしりと響きます。
[Anna]
Elsa! You're free
エルサ!もう自由なんだよ
そして、本家Let It Goではエルサが自分で「I'm Free」というところを、アナが「エルサはもう自由だよ」といって精神的に解放してあげるのです。サントラ聴いている時も毎回ウルウルきてしまうこの部分。(ロペス夫妻ありがとうございます。。。)
[Anna]
Let it go, let it go
Show us what you can do
何ができるのか見せてよ
「Show us what you can do」というのも、「何が普通の人と同じようにできないか」ではなく、エルサの個性として彼女にしかできないこと、ポジティヴな特殊能力をみせて、というように前向きな解釈に変わっていることが画期的です。
これは、PWD(Persons with Disability:英語の文脈において「障がいを持つ人」の現時点において政治的に正しいとされている言い方)のコンテクストで見ると、エルサがPWDのメタファーとして描かれているとみることができると言える部分です。
「ファインディング・ドリー」でも、ドリーが他の人と同じように記憶ができないのを、両親はドリーにしかできない記憶方法である貝殻を使って道を覚えるという方法をとっていたことが最終的な解決に至ったように、「何ができないかではなく何ができるかをみよう」という方向性になってきています。
これがエルサに持って起用されたと考えてもいいでしょう。
[Anna, Kristoff & Olaf]
Let it go, let it go
クリストフとオラフも加わります。
[Elsa]
The magic one is you
魔法なのはアナ、あなたよ
これも感動的なフレーズ。アナは本来エルサと異なり、いわゆる「魔法」は持っていないはずなのですが、ブローズンの場合逃亡後のエルサが触れてしまったことで凍りついた世界は、アナと一緒に触れることによって氷解しているため、アナの持つ愛の力がある種の「魔法」として描かれていて、それがエルサによって口にされる部分と考えられます。
これが言えるのは、魔法とははっきり言っていないものの「Love is a force of nature」というキャッチフレーズが、舞台開始一年前のメインイメージ公開の時に使われていたのも関係しています。
'Cause here we stand
だってこうしてここに一緒に立ってる
In the light of day
陽の光の当たる中
Let the
陽よ照らせ
一曲目の、戻るべき世界観を示している「Let the Sun Shine On」のフレーズが、本家Let It Goで Let the storm rage on となっているメロディの部分に当てはめられます。
おそらくですが、このフィナーレリゴーが先かそれと同時に、Let the Sun Shine On が対応するように作られて言ったのではないかなというのも見えてきます。
[Elsa]
I take this warmth within and sending up above
この内なる温もりを天高く送り上げ
this warmth within は心の内にある愛のことでしょう。
cold に対応しているとみて良さそうです。
sending up above は、映画でいうと氷解した雪を空に雪の結晶の形に打ち上げて消し去ったシーンが想起されます。
[Elsa & Anna]
Goodbye to dark and fear let's fill this world with light and love
暗闇や恐怖には別れを告げて この世界を光と愛で溢れさせ
これまで色々な曲で使われてきた抽象的な言葉の対応関係がしっかりなぞられていきます。
dark <-> light
fear <-> love
こういうのってすごく緻密にできてるけど、翻訳されて例えば吹き替え版ブローズンみたいなのができると、音節の都合上情報量がカットされた結果(ほぼ)絶対に落とされてしまう要素なので、 だからやっぱり原語がすきです。
[Elsa, Anna, Kristoff & Olaf]
And here surrounded by a family at last
そしてようやくここで家族に囲まれて
きました「family」。これは、「fear will be your enemy and death its consequence」 とパビーに言われたアグナル国王とイデュナ女王が、Monster のプリプライズ部分(Do You Want To Build a Snowman の記事参照)で
[Iduna]
Only until we gain more answers in hand
We find a way back
[Agnarr & Iduna]
To be a family again
と歌う部分に呼応しています。ここでは、アナとエルサの「最善のために」ということでエルサを隔離しアナとも引き離すことが決定されるわけですが、両親はこのことを決して望ましいとは思っておらず、でも致し方ないこととして実行します。
なんとか方法を探して、「再び家族になれる」ようにしようとここで歌われているように、一緒にいられなくなってしまった以上「家族ではない」という見方がされています。
だからこそこのフィナーレでは、「And here surrounded by a family at last」というように、新しく加わったクリストフとオラフ(歌ってないけどスヴェンも)とともに「家族」であることが強調されるのです。
これは「Olaf's Frozen Adventure」(オラアド)の邦題が「アナと雪の女王ー家族の思い出」であることにもよく現れています。
[All]
We never going back
決して戻らない
The past is in the past
すべては過ぎたこと
ここからはアンサンブル演じる国民たちや来賓たちも含めて歌われます。
アグナル国王やイデュナ女王、幼少期の姉妹、トロールたちも舞台に再び登場し、歌に加わることから過去が清算されて行く様子が再現されていると私はみています。
[All]
Let it go, let it go
And we'll rise like the break of dawn
日の出のように立ち上がり
Let it go, let it go
The fear and cold are gone
恐怖と寒さは消え去った
that perfect girl is goneの部分は「the fear and cold are gone」に変えられています。
Here we stand
ここが私たちの居場所
In the light of day
陽の光の当たる中
Let our true love grow
私たちの真実の愛を育ませよう
Let it go
総括
Let It Go という曲は「アナ雪 」と聞くとほとんど誰もが思い浮かべるほど記憶に刻まれていると思うのですが、ポジティヴな日本語訳詞によっってその真意があまり理解されていないのではないかというところが私が少し解せない部分でありました。
なぜならあの曲だけが切り出されて代表曲であり「テーマ曲」であるかのように扱われることは、Frozenを作品として好きである自分としては、あれではエルサは自己肯定をできただけで決して解決に至っていないという意味で、作品としてのメッセージとしては逆行してしまっているからです。
Frozenは自己否定に陥っていたエルサがまずは消極的なきっかけではあったにせよ自己肯定でき(Let It Go)、さらに他者からの愛と他者への愛に気づくことで共に生きていくことができるというところが大事なメッセージだと思っています。
だからこそ、このフィナーレ Let It Goが、うまく多くの人の記憶に刻まれている曲のリプライズの形をとりながら、本来のメッセージを伝えられる曲に歌詞を変えて生まれかわったことについては心から嬉しく思っています。
またこれらを踏まえてまだ訳詞や解釈をつけていなかった本家「Let It Go」を含む数曲もやっていくかもしれませんが、とりあえずBroadway版で追加された新曲についてはこの記事を持ってすべて紹介終了しました。
これまでの解釈記事が、少しでも多くの人がブロードウェイ版を鑑賞しに来る際のヒントになることや、サントラを聴くときの役に立てれば幸いです。
あくまで一つの解釈であり、訳すこと自体も一つの解釈の表象ですので、これが全てだと思って私も書いているわけではありません。
私なりにBroadyway版Frozenをこのように観て聴いていますということを表現した一連の記事になっていますので、参考くらいに観ていただければと思っています。
長らくお読みいただいた方、ありがとうございました。
楽曲リストはこちらになります。