いよいよ ブローズンのサントラCDが日本に届き始めましたね。
最近更新できてませんでしたが、これからも対訳つけて、解釈を語っていくスタイルで気長に続けていきます。(2018年6月15日付のコメントです)
15. For the First Time in Forever (Reprise)
位置付け
For the First Time in Forever のリプライズですが、映画版からの変更点がかなり効いています。作品全体にまで影響、というとすこし言い過ぎですが、以下の3つが主な変更点です。
・歌自体が始まる前に交わされる会話が映画版より詳細になった
・映画版だとエンドロールでかかった Demi Lovato 版の Let It Go の一節が加えられた
・この時点でのアナとエルサの関係性を決定づける「I'll help you」が加えられた
ではまずは歌自体が始まる前に交わされる会話を(ところどころ省略しますが)できる限り再現してみたいと思います。
要所要所、キーになるところは英語で再現しますが、基本日本語でいきたいと思います。
(赤字がブローズンでの変更・追加部分、青字で途中挿入してあるのが映画版にしかないセリフや歌詞です)
[Anna]
エルサ? 見違えたわ。いい意味でね。
それに、ここ、信じられないくらいステキね!
[Elsa]
"I never knew I could create something like this."
自分にこんなものが創れるなんて、知らなかったわ。
ここのセリフ、実は映画版だと
"I never knew what I was capable of."
自分にこんなことができるなんて知らなかったわ。
なのです。
ブローズンでは、わざわざ "create" という言葉に変わっています。
この変更について私は、what I was capable of だと creation と distruction の両方を含んでしまうからだとみています。
この時点でエルサは自分の力がアレンデールに甚大な被害をもたらしているのは知らないということになっていて、このあとそれを知ることでまた取り乱してしまうという展開になることを強調するために、I never knew I could create soething like this(自分にこんなものが創れるなんて知らなかった)にしたのかもしれません。
[Anna]
ごめんなさい。あんなことになっちゃって。
[Elsa]
いいの。アナのせいじゃないから。
アナは知らなかったんだもの。
このあたりで60秒数え終わったオラフが入ってきて、
[Anna]
"He is a little bit of you and little bit of me.
We were so close, we could be like that."
オラフは、エルサのひとかけと、私のひとかけよね。
とっても仲よかったわ。きっとまた戻れるよね。
はい、きました! A Little Bit of You のフレーズです!
[Elsa]
いいえ。
"I wish I coud be close to you more than anything"
本当はそうしたいわ、何よりも願ってる。
でも、無理なの。
この髪の毛の白い一房、どうしてこうなったと思う?
映画では、ただ「無理なの。」とだけ言うエルサですが、
ブローズンでは、「本当はそうしたいわ、何よりも願ってる」と発言をします。
これすごい泣ける…
[Anna]
ママが、これは生まれつきだって。
[Elsa]
違う。私がやったの。
私、あなたのこと、殺しかけたのよ。
アナが6歳だった時。
エルサが自分の口で、あの事故のことをアナに伝えるのです。
さらに泣ける…
[Anna]
でも、もう子どもじゃないわ。
[Elsa]
"I don’t know.
My powers are much stronger than they would be.
I’m okay here. Alone."
それはどうかしら。
私の力もかつてよりずっと強くなってるわ。
私はここで大丈夫。たったひとりで。
[Anna]
"Alone?"
ひとりで?
この "Alone" というキーワードを発した後、エルサが続けて言う、私の大好きなセリフ
"Where I can be who I am without hurting anybody"
誰も傷つけることなく、私らしくいられる場所
がカットされてしまっています。
この一言はたしかにあまりにも直接的すぎます。
きっとこの一言を説明すべく、 Demi Lovato 版 Let It Go の歌詞が冒頭に加えられたのでしょう。
それでは歌詞と対訳です。
歌詞と対訳
(赤字部分は、映画版からの変更・追加部分)
[Elsa]
Standing frozen
凍りついて立ち尽くす
In this
私が選んだこの人生
Please don’t find me
だからお願い 私を探そうとしないで
The past is all behind me
過去は全て過ぎ去ったの
Leave me in the snow
私のことは雪の中に残して帰ってちょうだい
Let me go
私を自由にして
[Anna]
I don't wanna let you go
あなたを手放したくないわ
[Elsa]
I'm just trying to protect you
あなたを守ろうとしてるだけよ
[Anna]
You don't have to protect me! I'm not afraid!
守ってもらう必要なんてない!怖くないもの!
Please don't shut me out again, please don't slam the door
お願い私をまた閉め出さないで、扉を閉ざさないで
You don't have to keep your distance anymore
もう距離を置く必要なんてないの
'Cause for the first time in forever
だって、時間はかかったけど初めて
I finally understand
ようやく理解できたんだから
For the first time in forever
ほとんど永遠ぶりに
We can fix this hand in hand
二人で手を取り合って元に戻せる
We can head down this mountain together!
一緒にこの山を降りれるのよ
You don't have live in fear
怯えながら生きなくてもいいの
'Cause for the first time in forever
だって ほとんど永遠ぶりに
I will be right here
私がすぐそばにいてあげられるんだもの
[Elsa]
Anna, please go back home, your life awaits
アナ、お願い帰ってちょうだい、あなたの暮らしが待ってるわ
Go enjoy the sun and open up the gates
門を開いて陽の光を浴びられる人生を満喫して
[Anna]
"Yeah, but —"
えぇ、でも
[Elsa]
"I know"
わかってるわ
You mean well, but leave me be
優しいのね、でも私のことは置いてって
Yes, I'm alone, but I'm alone and free
そうよ、私は独り、でもだから自由でいられる
Just stay away and you'll be safe from me
ただ離れていてさえくれれば、私があなたを傷つけることはないの
[Anna]
Actually, we're not
実はそうでもないのよ
[Elsa]
What do you mean, "you're not"?
そうでもないってどういうこと?
[Anna]
I get the feeling you don't know
もしかして、エルサ知らないのね
[Elsa]
What do I not know?
なにを知らないっていうの?
[Anna]
Arendelle's in deep, deep, deep, deep snow
アレンデールは深い深いそれは深い雪の中に埋もれてるの
[Elsa]
What?
なんですって?
[Anna]
"You've kind of set off an eternal winter...everywhere"
エルサがアレンデール中を常’冬’ にしちゃったのよ
[Elsa]
"Everywhere?"
アレンデール中を?
[Anna]
"But it's okay, you can just unfreeze it!"
でも大丈夫よ、溶かしてくれればいいだけ!
[Elsa]
"No, I can't, I — I don't know how!"
いいえ無理よ…どうやるかわからない!
[Anna]
"Sure you can! I know you can!"
"I'll help you!"
できるはず!私にはわかるの!
助けになるわ!
[Anna / Elsa]
And for the first time in forever / Oh I'm such a fool, I can't be free!
こうしてほとんど永遠ぶりに /
あぁ、なんて愚かだったの 自由になんてなれないの!
You don’t have to be afraid / No escape from the storm inside of me
怖がらなくていいの / 私の内なる嵐から逃れることなんて出来ないの
We can work this out together / I can’t control the curse!
一緒に解決できるのよ / この呪いは制御できない
We’ll reverse the storm you’ve made / Ohh Anna, please, you’ll only make it worse!
エルサが起こした嵐をおさめようよ / ねぇアナお願い、どんどん酷くしてるだけ!
Don’t panic / There’s so much fear!
パニックにならないで / とっても怖い!
We’ll make the sun shine bright / You’re not safe here!
陽の光を輝かせるの / アナ、ここにいたら危険よ!
We can face this thing together /
No!
一緒に向き合って / ダメ!
We can change this winter weather / I -
この冬を変えられるわ / 私には
And everything will be all right / I can't!
そしたら何もかも大丈夫なんだから!/ 無理!
解釈と解説
[Elsa]
Standing frozen
凍りついて立ち尽くす
In this
私が選んだこの人生
Please don’t find me
だからお願い 私を探そうとしないで
The past is all behind me
過去は全て過ぎ去ったの
Leave me in the snow
私のことは雪の中に残して帰ってちょうだい
Let me go
私を自由にして
ちなみに Demi Lovato 版 Let It Go の該当部分の歌詞は次の通り
You won’t find me, the past is all behind me
Buried in the snow
これ通りというわけではありませんが、基本はこれです。
何が辛いって、"Let me go" (私を自由にして、放っておいて、解放して) を言わなきゃいけないエルサと、それを言われてしまうアナ…
反射的にアナが言うセリフがまた心に刺さるんです。
[Anna]
I don't wanna let you go
あなたを手放したくないわ
ここから "しばらく" は「いつもの」リプライズです。
次の変更点がラストですが、それがかなりビッグな意味を持つと私は思ってます。
ここからは
「エルサの愛のカタチ」と「アナの愛のカタチ」がいかにすれ違っているかを確認するために、整理します。
愛と恐怖は対になっています。
エルサの愛のカタチ(1)
愛のカタチ:protect Anna アナを守る
[Elsa]
I'm just trying to protect you
あなたを守ろうとしてるだけよ
[Anna]
You don't have to protect me! I'm not afraid!
守ってもらう必要なんてない!怖くないもの!
アナの恐怖と愛のカタチ(1)
恐怖:再びエルサに閉め出される(拒絶される)こと
愛のカタチ:距離を置かない、手を取り合って一緒に解決、そばにいる
Please don't shut me out again, please don't slam the door
お願い私をまた閉め出さないで、扉を閉ざさないで
You don't have to keep your distance anymore
もう距離を置く必要なんてないの
'Cause for the first time in forever
だって、時間はかかったけど初めて
I finally understand
ようやく理解できたんだから
For the first time in forever
ほとんど永遠ぶりに
We can fix this hand in hand
二人で手を取り合って元に戻せる
We can head down this mountain together!
一緒にこの山を降りれるのよ
You don't have live in fear
怯えながら生きなくてもいいの
'Cause for the first time in forever
だって ほとんど永遠ぶりに
I will be right here
私がすぐそばにいてあげられるんだもの
エルサの愛のカタチ(2)
愛のカタチ:アナが幸せな人生を送れるようにしてあげる。
キーワードは "sun", "open up the gates"
"Sun" はオープニングナンバー "Let the Sun Shine On" で象徴的に扱われていますし、"Finale / Let It Go" で再びエルサの口から歌われます。
"Open up the gates" がエルサの口から語られるのは、リプライズでない "For the First Time in Forever" でエルサが決心をして、戴冠式のために城の門を開けるよう指示するあの歌詞以来です。
[Elsa]
Anna, please go back home, your life awaits
アナ、お願い帰ってちょうだい、あなたの暮らしが待ってるわ
Go enjoy the sun and open up the gates
門を開いて陽の光を浴びられる人生を満喫して
[Anna]
"Yeah, but —"
えぇ、でも
エルサの恐怖と愛のカタチ(3)
恐怖:人(とくに誰よりもアナ)を傷つけること
愛のカタチ:とにかく離れる たとえ自分が独りであっても
[Elsa]
"I know"
わかってるわ
You mean well, but leave me be
優しいのね、でも私のことは置いてって
Yes, I'm alone, but I'm alone and free
そうよ、私は独り、でもだから自由でいられる
Just stay away and you'll be safe from me
ただ離れていてさえくれれば、私があなたを傷つけることはないの
この記事の冒頭で、ブローズンではカットされてしまった、映画版のセリフを紹介しましたが、
"Where I can be who I am without hurting anybody"
誰も傷つけることなく、私らしくいられる場所
このセリフがカットされたのは、もともとあった、
Yes, I'm alone, but I'm alone and free
Just stay away and you'll be safe from me
が内容として被っていると言うのもあるかもしれません。
[Anna]
Actually, we're not
実はそうでもないのよ
[Elsa]
What do you mean, "you're not"?
そうでもないってどういうこと?
[Anna]
I get the feeling you don't know
もしかして、エルサ知らないのね
[Elsa]
What do I not know?
なにを知らないっていうの?
[Anna]
Arendelle's in deep, deep, deep, deep snow
アレンデールは深い深いそれは深い雪の中に埋もれてるの
[Elsa]
What?
なんですって?
[Anna]
"You've kind of set off an eternal winter...everywhere"
エルサがアレンデール中を常’冬’ にしちゃったのよ
[Elsa]
"Everywhere?"
アレンデール中を?
[Anna]
"But it's okay, you can just unfreeze it!"
でも大丈夫よ、溶かしてくれればいいだけ!
[Elsa]
"No, I can't, I — I don't know how!"
いいえ無理よ…どうやるかわからない!
アナの愛のカタチ(2)
愛のカタチ:エルサを信じる、エルサを応援する、自分が助けてあげる
[Anna]
"Sure you can! I know you can!"
"I'll help you!"
できるはず!私にはわかるの!
助けになるわ!
ここが、この曲の最後の変更箇所です。
なぜ、"I'll help you" に注目するのか
映画版でも、もともと "Sure you can! I know you can!" というセリフはあります。
そこに "I'll help you" (私が助けになるわ!)が加わったわけです。
セリフ自体は本当に単純で文字通りのわかりやすいセリフです。
でも、このセリフ、精神的に追い詰められているこの状況のエルサにとってはすごく刺さると思うんです。
「助ける」という概念って、やっぱり「助ける側」と「助けてもらう側」を生むわけです。
助けてあげるよ、と言われる側は、自分は助けられる対象になるべき存在なんだ、自分は助けられる必要があるんだ、という認識にならざるを得ません。
つまり、「助ける」という概念があるところには、上下が存在してしまうのです。
エルサの魔法は「スティグマ」
エルサのように、生まれつき、人とは少し違う特徴をもっていますが、この特徴について、ブローズンの冒頭では、幼少期の2人がこんな会話を交わしています。
[Elsa]
"Anna, you know I'm not supposed to even be doing this!"
アナ、こんなことだってしちゃいけないことだってわかってるでしょ!
[Anna]
"But your magic is the most beautiful, wonderful,
でもエルサの魔法は、広い世界で一番キレイで、ステキで、完璧なんだよ!
参考: *Frozen Broadway* 02. A Little Bit of You 歌詞 -
そうなんです、アナの言うように、力自体は他の人には真似できない「才能」なんです。
でもこの同じ夜、アナを傷つけてしまったがために、Hidden Folks の忠告を受けることになります。
"Fear will be your enemy, the death its consequence"
恐れが敵となり、死をもたらす
ここから、父アグナル王の決断により人との接触を最小限にするため、エルサは隔離されます。
参考: *Frozen Broadway* 03. Do You Want to Build a Snowman? 歌詞 - ikyosuke 作品分析
そして父王が繰り返し唱えさせた
"Conceal, don't feel, don't let it show"
これらの一連の要因によって、エルサは自分の「才能」でもある魔法を、持っていることで人を傷つける可能性があり、見せてはいけないしかも言ってもいけない、秘密にしなきゃいけない、それがあることで家族に迷惑までかけている「悪いもの」と捉えるようになっていき、自己否定に陥っていきます。
これを学問的には「スティグマ(stigma)」と言います。
ちょっと難しい概念なのですが、 Erving Goffman の定義に従えば、
それをもつことで、「人の信頼/面目を失わせる(discredit)働きが非常に広範にわたる」属性
言い換えると「人々が期待しているものとは違う望ましくない特異性」
となります。
まさにエルサの魔法はこれに当たります。
スティグマを持っている人にとって、
それによってずっと悩まされてきていて、それを取り除くことができないから苦しんでいるのに、
いとも簡単に「助けるよ」「一緒に頑張ろう」と言われては、心を閉ざしてしまいます。
エルサはきっと
「助けるって、どう助けるのよ!そもそもあなたの『助け』なんて求めてないわ。そんな無責任なこと言わないで!」
と思っていたかもしれません。
お互いの愛のカタチの違いにいよる壮絶なすれ違い
確認してきたように
アナの恐怖:
再びエルサに閉め出される(拒絶される)こと。
アナの愛のカタチ:
距離を置かない、手を取り合って一緒に解決、そばにいる。
エルサを信じる、エルサを応援する、自分が助けてあげる。
エルサの恐怖:
人(とくに誰よりもアナ)を傷つけること。
エルサの愛のカタチ:
アナを守ってあげる。
アナが幸せな人生を送れるようにしてあげる。
とにかく離れる たとえ自分が独りであっても。
真っ向から対立しています。
しかし共通しているのは、お互いに一方的に助けてあげる、守ってあげる、というように「〇〇してあげる」という一歩ずつ上からの差し伸べのようなスタンスをとっているのです。
対等になれていないのです。
スティグマを抱えているエルサはパニックになり、どんどん心を閉ざして言ってしまいます。
※ Frozen Heart 凍りついた心は、「冷酷な心」のように解釈されがちですが、もしかしたら、相手の愛をシャットアウトしてしまう、「硬く閉ざされた心」のことだとも解釈できるな、と今この記事を書きながら思いました。
では、歌詞を続けます。
ここからアナは、自分の愛のカタチだけを押し付け
エルサは自分の恐怖だけを発し続けます。
先ほどの愛と恐怖の色分けを適用してみました。
[Anna / Elsa]
And for the first time in forever / Oh I'm such a fool, I can't be free!
こうしてほとんど永遠ぶりに /
あぁ、なんて愚かだったの 自由になんてなれないの!
You don’t have to be afraid / No escape from the storm inside of me
怖がらなくていいの / 私の内なる嵐から逃れることなんて出来ないの
We can work this out together / I can’t control the curse!
一緒に解決できるのよ / この呪いは制御できない
We'll reverse the storm you've made / Ohh Anna, please, you’ll only make it worse!
エルサが起こした嵐をおさめようよ / ねぇアナお願い、どんどん酷くしてるだけ!
Don't panic / There’s so much fear!
パニックにならないで / とっても怖い!
We'll make the sun shine bright / You’re not safe here!
陽の光を輝かせるの / アナ、ここにいたら危険よ!
We can face this thing together / No!
一緒に向き合って / ダメ!
We can change this winter
この冬を変えられるわ / 私には
And everything will be alright / I can't!
そしたら何もかも大丈夫なんだから!/ 無理!
よく構造化されているのが、見えてきます。
私自身この辺のことに関連したことをやっているため、ちょっとアカデミックな「スティグマ」の概念なんてものをつい持ち出してしまいましたが、また作品全体を通しながらどこかで論じられたらな〜なんて思ってます。
歌詞分析はまだまだ続きます。
楽曲リストはこちら。