westergaard 作品分析

映画、ミュージカル、音楽、自分が好きなものを分析して語ります。

La La Land 音楽分析メモ(主要6曲の様々なアレンジによるリプライズ)

La La Land 音楽分析メモ(主要6曲の様々なアレンジによるリプライズ)

これは私が2017年3月12日に書いた記事ですが、このブログでは公開していなかったので、金曜ロードショウに合わせてこちらで公開してみました。
 

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(以下2017年3月12日に記入)
 

 2月24日の公開日以来、La La Land の批評・分析に関する記事は毎日のようにネット上にアップされていて、最近は少なくとも一日一回それを検索するのが日課になっている。単なる感想から構造批評まで様々だが、記事ごとに色々な解釈や関連知識が得られるので興味深く読ませていただいている。もちろん私も公開初日以来何度も映画館に通い、La La Landの虜になったうちの一人だ。

 

 ここでは事細かにストーリーを分析したり、批評記事を書いたりしたいわけではない。取り上げたいのは音楽だ。と言っても巷でホットなジャズやミュージカルの観点ではなく、あくまで「反復の演出としての音楽」に注目したい。

 この作品はミュージカル形式をとっているにも関わらず、主人公たちが歌ういわゆる「ミュージカル ・ナンバー」が少ないことは多くの人によって指摘されている。しかし、反復の演出によって二度目以降は歌わずとも「リプライズ」がなされているのが私にとっては印象的だった。それどころか、既に曲としてはインストで登場しており、ミュージカル・ナンバーとして歌うのが二度目以降である場合すらあったことに驚かされた。

既にお気づきの方も多いかもしれないが、この映画の音楽は主要な6曲のアレンジと組み合わせで構成されている。

何度も繰り返し映画を観られるようになったらまた改めて細かい分析ができたらとは思っているが、これを書いている時点ではこのことを言及している日本語の記事が見当たらなかったので、メモ程度にまとめておくことにした。

 

 映画の中で主人公たちによって歌われる(ないし演奏される)主要な楽曲は、『♫Another Day of Sun』『♫Someone In the Crowd』『♫Mia & Sebastian’s Theme』『♫A Lovely Night』『♫City of Stars』『♫Start a Fire』『♫Audition』の7曲だ。

 オリジナル・サウンドトラックには、これらを含めた15曲が収録されているが、iTunesAmazonでデジタル配信されている「ラ・ラ・ランド(コンプリート・ミュージカル・エクスペリエンス)」にはオリジナル・サウンドトラックに収録されていない他の曲も含め、映画で使われたほとんどすべての楽曲(全44曲)が収録されいて、冒頭のハイウェイで夢追い人たちがそれぞれの車内で聴いているラジオや音楽に始まり、エンドクレジットの曲まで映画全体の音楽を視聴することができる。今回は「ラ・ラ・ランド(コンプリート・ミュージカル・エクスペリエンス)」を元に書いている。

 
 

 さて、先ほども言及したように、この映画の音楽は主要な6曲のアレンジと組み合わせで構成されている。それは『♫Start a Fire』を除く、『♫Another Day of Sun(ADS)』『♫Someone In the Crowd(SIC)』『♫Mia & Sebastian’s Theme(MST)』『♫A Lovely Night(ALN)』『♫City of Stars(COS)』『♫Audition(ADT)』の6曲だ。

以下に、どの楽曲が6つのうちのどのメロディーをとっているかを図に示した。

 

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 順を追って解説を加えていく。なお分析としてのオチはなく、淡々と各シーンで流れる音楽(インスト)のメロディーがどのミュージカルナンバーに対応しているかを記録したものになることをご了承いただきたい。今後分析するための参考程度にメモしておくつもりだ。


【冬】

ミアと同じく孤独な夢追い人であるセブが、もっと堅実な生活をしろと言う姉のローラに「ロマンチックの何が悪い」と反論するシーンでは『♫Someone In the Crowd』のメロディーが流れている。(『♫Classic Rope-A-Dope』)このことからセブも、夢を実現するチャンスを作ってくれる “Someone In the Crowd” を必要としていることが表現される。逆に、このシーンでローラに対してセブが『♫Someone In the Crowd』のリプライズ的な曲を歌い始めたら、私だったら引いてしまう(笑)。ちなみにこの曲の後、セブがオーナーの指示で弾くクリスマスソングを挟んで、ついに『♫Mia & Sebastian’s Theme』を演奏し、そこでミアとセブが本当の意味で出会うが、それ以降ミアがLAを去って故郷に帰るシーンまで『♫Someone In the Crowd』のメロディーが登場することはない。『♫Mia & Sebastian’s Theme』をきっかけに、夢を実現するチャンスを作ってくれる “Someone In the Crowd” としてのお互いの存在を見つけてしまったためなのだろう。


【春】

『♫A Lovely Night』の直後のシーンでは、二人で踊った時間を名残惜しく感じるのか、ミアのプリウスが見えなくなったあとでセブが少しまたタップダンスのステップを踏んでみたり、翌朝ミアが職場へ向かう際にターンをしたりする様子が描かれるが、その背景には『♫A Lovely Night』のメロディーが流れている。(『♫There the Whole Time / Twirl』) その次のシーンで、仕事を終えたミアとセブが撮影現場を散歩するシーンでは、ミアが自身の夢の原点となった叔母さんとの思い出を語るが、そのシーンの音楽はなんと映画終盤の見せ場の一つ目に当たる『♫Audition』のメロディーだ。(『♫Bogart & Bergman』)一方で、そんな夢を持ちながらもオーディションに落ち続けていると言う現実を語りだし「ジャスは嫌いなの」と告白するまでの音楽は、後にセブが歌う『♫City of Stars』のメロディーがかかっている。『♫City of Stars』では、2つの "dream that I cannot make true” について歌われるので、『♫City of Stars』のメロディーは「叶わぬ夢のテーマ」と位置付けることができよう。(『♫Mia Hates Jazz』) その直後、LIGHTHOUSE CAFEでセブが自分のジャズバーを開くという自分の夢を語った後に、ミアがオーディションの1次を通過したという知らせを受けRIALTOでの映画デートを約束するシーンでは、『♫A Lovely Night』のジャズアレンジがかかる。 セブの『♫City of Stars』を挟んで、オーディションでまともに取り合ってもらえなかったミアが、RIALTOの看板を見てセブとの約束を思い出して気を取り直すシーンでは再び『♫A Lovely Night』が流れる。それを機に『♫A Lovely Night』のメロディーは聴かれなくなる。この後『♫A Lovely Night』のメロディーが登場するのは、ミアのオーディション後「ずっと愛してる」と言い合った後のシーン、すなわち空白の5年間の直前になる。 そこから遅刻してRIALTOに行き、グリフィス天文台でのデートを経て初のキスに至るまでは一貫して『♫Mia & Sebastian’s Theme』のアレンジが続く。ミアと目線もあまり合わせず、兄カップルとの食事でもほとんどミアを会話に入れない今彼グレッグ。ミアはそんなつまらない食事をしているレストランで、ふと聞き覚えのあるメロディにハッとする。『♫Mia & Sebastian’s Theme』はセブが作ったオリジナル曲なはずなので、レストランでBGMとして流れているとは考えにくい。そのため、これはミアがセブのことを無意識のうちに考えていて、その時レストランでBGMとして流れてきた、多くの人には聞き流されてしまい会話によってかき消されてしまうジャズ音楽に、意識が行きセブへの想いを募らせるという演出なのではないかと解釈している。そして映画館でのフィルムが焼けるというアクシデントを経て、ミア提案の「聖地巡礼」として向かったグリフィス天文台プラネタリウムにて『♫Someone In the Crowd』に登場したフレーズ “the one to finally lift you off the ground” が、文字通りに実現したところで【春】は幕を閉じる。


【夏】

『♫Summer Montage』を経た後、行きつけのLIGHTHOUSE CAFEでキースが声をかけてくる際にかかるのは映画冒頭の『♫Another Day of Sun』のアレンジだ。(『♫It Pays』)その夜ミアの一人芝居の脚本を聞いたセブが、自分のバーのことについて話し始めるシーンでは、再び『♫Another Day of Sun』のアレンジが流れる(『♫Chicken On a Stick』)。その翌朝は,あまり批評記事には書かれないが、セブにとってはかなりのターニングポイントとなったであろうシーンだ。ミアが母親にセブのことについて電話で話していて、「今は安定した職についていないけど、きっと貯金があるのよ。とにかくジャズバーは開くし、気に入るはずよ」と言う。それを聞いたセブは、キースには連絡を取らないときっぱり言っていたにも関わらず、キースのバンドMessengersの練習場所へ向かう。彼にとってある意味での “Another Day of Sun” が昇ってしまった瞬間だったのではないだろうか。ちなみに劇中でこのシーン以外で『♫Another Day of Sun』のアレンジがわかりやすいカタチで登場するシーンは『♫Epilogue』以外他にはない。印象的な冒頭からだいぶ時間の経過したところでこのキャッチーなメロディーを使ったことには、ターニングポイントのマーカーとして大きな意味があるのではないかと考えている。 続いて、この作品において本当の意味でリプライズされた唯一の曲『♫City of Stars / Mat Finally Come True』を経ながら、ミアは一人芝居の準備を着々と進め、セブはミアとの暮らしのための稼ぎとしてのバンド活動を続けていく。クリスマスソングや80年代ポップスを弾かさせられていた時のように、彼が本当にやりたい “pure jazz” ではないものを演奏するとき、彼は生き生きしていない。しかし、物語全体の折り返し地点となる『♫Start a Fire』のライブでピアノとキーボードを演奏するセブは、“pure jazz” ではないにも関わらず、それまでとは違って楽しそうに生き生きとした表情を見せる。その表情を見たミアが、夢をどこかへおいてきてしまった彼にはっきりと気づいたところで【夏】は終わる。
 


【秋】

バンド活動で忙しいセブとは滅多に会えない日々を送りながら一人芝居を二週間後に控えたミアがチャイナタウンのカフェで作業をしているところから始まる。ここでは非常にわかりづらいが、『♫Chicken On a Stick』の最初の部分で使われた『♫Another Day of Sun』のアレンジのフレーズがピッチを下げて再登場する。ミアは唯一の夢の応援者であるセブとなかなか会えなくなってしまったつらい日々においても引き続き、翌朝昇る太陽 “Another Day of Sun” を信じて夢に向かい続けていることを象徴しているかのようだ。その後、久しぶりに帰宅したセブがサプライズディナーを振る舞うシーンでは、彼が劇中の世界観の中でレコードで再生しているBGMとして『♫City of Stars』のアレンジが流れる。(『♫Boise』)そしてこの時が、『♫City of Stars』のメロディの劇中最後の登場となる(ただし『♫Epilogue』を除く)。 この位置付けの意味するところについては、『♫City of Stars』のメロディが最初に登場したのが『♫Mia Hates Jazz』としてだったこと、『♫Boise』が流れたシーンでは、ミアは「私は今はもうジャズが好きだ」と言うこと、クレジットタイトルの後にミア一人のハミングによる『♫City of Stars (Humming)』があることなどがヒントになりそうだが、まだ私は解釈ができていない。
 そしてついに二人の関係が一旦は破綻するシーンである、セブがミアの一人芝居に間に合わなかった時の音楽『♫Missed the Play』ではマイナーアレンジで『♫Mia & Sebastian’s Theme』の一節が流れる。 それに続くミアの帰郷シーンでは、映画始めの【冬】のシーン以来初めての『♫Someone In the Crowd』のメロディーが登場するが、その曲の途中からLAにいるセブにう映像が切り替わりその曲がセブによって婚約パーティーのBGMとして演奏されていることが描かれる。二人はそれぞれの “Someone In the Crowd” を失ってしまい再び独りずつになってしまった描写だろう。 その曲の直後セブの携帯に、ミアの一人芝居を見たキャスティングディレクターから電話が入り、連絡のつかないミアに知らせるために、セブはミアの自宅を探しに行く。その時セブがミアの自宅を探すヒントにしたのは、演劇のタイトル「So Long Boulder City」と『♫A Lovely Night』の翌日お互いの夢を語り合ったあの【春】の日にミアが発した「よく叔母と家の目の前にある図書館で古い映画をみた」という一言だったのだと言うことが前後の演出から理解できる。セブが翌朝ミアを迎えに自宅前に来た時にかかる曲(『♫The House In Front of the Library』)のメロディーは、もちろんヒントになった言葉をミアは発したあの時に流れていた『♫Bogart & Bergman』と同じ『♫Audition (The Fools Who Dream)』のメロディーだ。その後ようやくミアにより『♫Audition (The Fools Who Dream)』が歌われ、すべての曲が出揃ったところで、再び【春】以来の『♫A Lovely Night』のメロディを使った『♫You Love Jazz Now』が登場して【秋】が幕を閉じ、空白の5年を迎える。


【冬】

 そして5年後の【冬】は『♫Epilogue』として『♫A Lovely Night』を除いた5曲がリプライズの形で奏でられながら、「what ifシーン」が描かれ、二人が視線を交わし合うところで再び『♫Mia & Sebastian’s Theme』のメロディが『♫The End』として流れて映画は終了となる。

 

 

この映画はとっても好きなので、考察も色々していますが、この記事はこの分析メモという形で終わらせたいと思います。(2017年3月12日)