westergaard 作品分析

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ディズニー・スプラッシュマウンテン署名運動とは!?(追記)プリンセスと魔法のキスのアトラクションに変更決定

 

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追記

 実際に、結果としては、署名にあった要求に応える形で変更することが公式に発表されました!!(2020.6.26.)

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disneyparks.disney.go.com

 

この報道に関する速報動画はこちら↓

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はじめに

当ブログでも、広い意味でのディズニーが行う「多様性」「社会的マイノリティ」「周縁化される人々」に関した表象のあり方の変更について取り上げてきていますが、2020年6月16日の報道で、「Disney reportedly creating new committee on minority representation in Orland parks and resorts」という記事が上がりました。
現在、#BlackLivesMatter 等が再燃する中において、ディズニーは本ブログでも主要なテーマとして扱ってきたDisney On Broadwayのアカウント等でもこのような投稿が多々なされていることからもわかるように非常に敏感にこう言ったことに対して意見表明をしています。

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パーク(いわゆるディズニーランドなどを含む総称)における表象の更新は、(「ディズニーランドは永遠に完成しない=更新され続ける」という言葉がある割に)映画よりも遅いことがあり、これまでも「価値観のタイムカプセル」的に揶揄されてきましたが、そのことについて動き出しつつあるようだ、という報道です。

この記事ではこちらを和訳しながら、内容を追いかけていきます。

www.orlandoweekly.com

 

またこちらの記事の内容は、当ブログの筆者 @westergaard2319 のYouTubeチャンネルでもトーク動画として扱いました。ぜひご覧ください!

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記事の和訳

タイトル

Disney reportedly creating new committee on minority representation in Orland parks and resorts

「レポートによるとディズニーは、新たに、オーランドのパーク&リゾート(=Walt Disney World: WDW)におけるマイノリティの表象に関する協議会を形成しているようだ」

 

アメリカ人が自文化の文化の隅々にまでとり憑いている「人種差別の幽霊」と取っ組み合っている中、企業は今、自らの歴史的な過ちと不平等を永続させ続けている根深い偏見に対処することへ熱心に取り組もうとしています。ウォルトディズニカンパニーほど、このご時世で求められる自己の見直しに関する難儀な課題を持っている企業は他にないと言えるでしょう。

 

ディズニー社は、これまで議論になった問題について、ケースに応じて対応してきました。特定の人種やエスニック集団についての現在となっては受け入れがたい表現についての注意喚起を加えたり(Disney+などで配信される際に記載されているものなど)、特定のシーンをカットしたり(ダンボのジム・クロウのシーンはDisney+ではもう見られない*)、歌詞を変更したり(これはアラジンのアラビアンナイトに関する本ブログの記事を参照してください)、他の変更をすることで、問題のあるコンテンツを消すべく試みてきました。

 

*ダンボのジムクロウについてこの記事の中では削除されたと報道されているが、その後削除を取りやめ注意喚起にとどまった模様。

whatsondisneyplus.com

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これらの変更が映画においてなされてきたことは特筆すべきである一方で、同社のリゾート(テーマパーク)は、ここ数週間でも、多くの人々がディズニーリゾートでの経験について声を上げるようになってきたことから新たな課題に直面した。それらの声というのは、ずっと放置されてきた人種主義的な物語に基づいたアトラクションの更新を求めるものです。

 

Change.org という署名サイトにおいて、スプラッシュ・マウンテンのアトラクションの「リ・テーマリング(テーマの見直し、変更)」を求める声が上がり、国際的にも注目を集め、すでに1万以上の署名を集めています。

ジャズを歌うオランウータン(「ジャングル・ブック」)や、文字通りジム・クロウと名付けられた「ジャイヴトーキン(黒人ジャズミュージシャンのスラング)」な カラス(「ダンボ」)や、マジカル・ニグロ的な(白人の主人公を助けにくるサブキャラ的存在の黒人)集団が登場する作品が数多くあるディズニー作品だが、その中においても「南部の歌(ソング・オブ・ザ・サウス)」ほど問題のある映画はなかったと言える。1946年に製作された、南北戦争後の南部諸州再編の時代のプランテーションを舞台にした映画だ。そこでは、プランテーションの所有者の孫が黒人のストーリーテラーであるリーマスおじさんと仲良くなる。ブレアラビット、ブレアフォックス、ブレアベアが命を宿り、その物語の中にはオトリとしての罠である「ター・ベイビー」(「く*んぼ」にあたる差別用語)などの話も登場する。映画が元としている、ジョーエル・チャンドラー・ハリスの元の物語においては南北戦争以前の南部についての風刺批判が見つけられるが、映画ではその視点が不在である。問題になっているアトラクション、スプラッシュマウンテンはこの映画を元としている。

 

ディズニー(パーク)の抱える問題は、スプラッシュマウンテンひとつに限った話ではない。「ピーターパンの空飛ぶ旅」には、1953年の作品「ピーターパン」に登場する「インディアン」とやりとりをしたシーンに基づく、移動テント小屋の集落が登場する。作品においてインディアンは、歌を歌うのだが、そこが「ブロークン・イングリッシュ(カタコトの英語)」でない言葉を話す唯一の場面である。にもかかわらず、その歌の内容は「What Makes the Red Man Red(なぜ、赤い人は赤いのか)」(赤というのはネイティヴアメリカンに対して結び付けられる象徴的な色である。歌詞の内容も、英語が話せないことを揶揄する歌詞の内容で非常に差別的な歌である。)

他のアトラクションにおいても、それぞれ個別に問題直面する。例えば、エスニックな多様性や、マイノリティの歴史表象の不在、あるいは、黒人や他の非白人の技術的な貢献が「カルーセル・オブ・プログレス」(円形のシアターで、座席がメリーゴーランドのように回り、各時代の生活の様子をタイムマシーンのように見せていくアトラクション、日本にはない)で不在であること、などだ。

 

報告によれば、今ディズニーは、新たに、パーク・リゾート部門の中において、ディズニーパークの中にある、一連の問題のあるシーンやキャラクター、アトラクション全体について取り組むための協議会を立ち上げたという。そのリストは見直しのたびに増えていっているという。

 

信頼できる情報筋であるthe WDW Magic forumsでは、複数の情報ソースから、ディズニー社がどのように不適切なキャラクターの描き方についての対応するかについて議論しているという報告が寄せられているという。この新たに提案された協議会が取り組むアトラクションのリストは、噂によると、上記に書いたアトラクションのほか、「イッツ・ア・スモール・ワールド」「カントリー・ベア・ジャンボリー」「ザ・ホール・オブ・プレジデンツ(日本にはない)」「ジ・アメリカン・アドベンチャー・アンド・ザ・フープ・デ・ドゥー・レビュー(日本にはない)」も含んでいるという。

もし実行されるなら、その見直しは、ディズニーのアトラクションの不適切な部分の特定や変更についてより正式なアプローチがなされることになるだろう。ディズニーが、公式にそういったレビューのための協議会があることを認めるかどうかは定かではない。またその協議会からの提案を公にするかどうか、はたまたそのプロセスを明かすかどうかについても、定かではない。


驚くべきことに、「ディクシー・ランディングス」と知られるプランテーションをテーマにしたリゾート(WDW内に存在)はこのリークされた協議会による見直しのリストには入っていない。どうやらディズニーは20年前に行った名称の変更以上のことをするつもりはないようだ。今は「ポート・オーリンズ、リヴァーサイド」として知られているが、このリゾートはディズニーワールドのホテルの(コロナ後の)再オープンの第二波に含まれるようで、7月中旬には再オープンされることになっている。ディズニーはこのプランテーションをテーマにした建物を、「風格のある白柱の邸宅」と呼ぶ一方で、ディズニーワールドのウェブサイトでは数日前まで、「南北戦争前の南部の優雅さを感じながら寝転んでくつろいでください」という文句で客へアピールしていた。そこには、(黒人奴隷による綿花栽培をしていた時代の象徴である)搾綿機も置かれている。

 

ディズニーがアトラクションやその他の提供物について更新をするのは今回が初めてではない。2016年6月14日にワニが2歳の子供を殺した後は、ディズニーはワニに関する多くのものを撤去した。2015年には、ビル・コスビーの胸像がハリウッド・スタジオ・パークから撤去された。彼の性的暴行に関する申し立てがあったことが明らかになったからだ。また南部連合の旗は、土産店から撤去され、エプコット・パークのアメリカン・アドベンチャーのホール・オブ・フラッグスに今後決して飾られないことになった。さらに、「カリブの海賊」の複数のシーンはジェンダー表象の観点からより良い表現へと更新された。

取締役会長のボブ・アイガー(ロバート・A・アイガー)と、新たにCEOに指名されたボブ・チャペックの両氏が、新たなイニシアティブに基づいて、ディズニーのマイノリティ表彰についての歴史を公に認めようと思っていることがほのめかされている。

全ての主要なハリウッドのスタジオがそうであるのと同様に、ディズニーもまた指揮をとる役職レベルにおける、深刻なマイノリティの代表者の不足(人事的な意味で)という問題がある。この点については、間も無くなされるであろうスタジオサイドに関するアナウンスメントによって取り組まれる予定だ。ディズニー社のその新たなイニシアティヴに関するニュースは、ディズニーの所有下にあるABCのような局ではない、ハリウッドに関する報道に焦点をおいたメディアから発信される模様だ。

どんな変更であれ、ディズニーのアトラクションやリゾートについて承認された変更は、実際に実装されるまで数年かかるようだ。現時点においては、ひとまず全て再オープンすることが待ち望まれている。7月中旬にはディズニーワールド、ディズニーランドのテーマパークがオープンする予定になっている。

 

westergaardのコメント

映画についてはスタジオが、どんどん過去の表象をパロディしたり、実写版の作成などによって、「遅すぎ」ではありながらもある程度「軽やかに」「柔軟に」対応するようになってきている。新しく作られる作品においてはどんどん過去の表象について「self-reflexive(自己再帰的)」な描き方がされるようになってきていることは、私が最近始めたYouTubeチャンネルでも紹介しているような『シュガー・ラッシュ:オンライン』や、記事でも取り扱った『アナと雪の女王2』などで見られている通りだ。 

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またオンラインでの配信サービスプラットフォームとしてのDisney+が展開され始めたことから、カット、変更、注意喚起などの対応がなされやすくなったことは良い傾向であった。

front-row.jp

 

ディズニーのテーマパークは、昨今日本でもようやく配信され始めた「イマジニアリング・ストーリー」でも語られていると思うが、一旦作ったらそれっきり変更が基本的には加えられない映画(実際には上のように変更されるようになってきているが)に対して、常に更新し続けることのできる場としての意味があった。

にもかかわらず、パークこそが「過去の価値観」を冷凍保存し続ける場所となってしまっている側面がある現状は否定することはできない。

しかし同時にディズニーのパークが、過去の「古き良きアメリカ」を振り返る歴史追体験的側面があることから、そういった過去にどう向き合うかという問題が絡んでくるため簡単には解決できない。

また、南部の唄(ソング・オブ・ザ・サウス)が批判されたように、実際に存在したはずの差別がなかったことにしてしまうのも問題とされる。実際、一次大戦直後が舞台にっている、初のアフリカ系アメリカ人女性を主人公にした「プリンセスと魔法のキス(2009年公開)」においても、公民権運動以前であればあったはずの差別がほぼなかったことにされており、それに対する批判は公開当時からなされてきている。

あれほどヒットしたアナと雪の女王においても、スカンジナビア半島遊牧民族であるサーミの描き方や文化の扱い方についての批判が為された結果、アナと雪の女王2においてはサーミを模した民族に対する歴史的迫害とその歴史修正主義的な態度を改めることが主人公たちの旅の中で課せられた。さらに制作にあたっては文化盗用(カルチュラル・アプロプリエーション)にならないよう、サーミと契約を結んでいることなども公表されている。

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他にも、Zootopiaのように差別や偏見に対して取り組む作品も登場しており、ディズニーアニメーションスタジオはじめとする映画スタジオ部門が取り組んでいることを追って、パーク・リゾートの部門(Disney Parks, Experiences and Products)下の各部署も取り組んでいくことになったのであろうと推察される。

#BlackLivesMatter が再びセンセーショナルになってきている現在、アメリカにおいて、そして世界においてあまりに巨大すぎるメディア企業が、多くの人たちの価値観に子どもの頃から影響を与え続ける「ディズニーランド」などのパークのアトラクションがどのように変更されていくのか、注意深く見守っていきたい。

 

 

 

※ディズニーカンパニー内の部署の構成については以下の図を参照。この図は、先日ブロードウェイアナと雪の女王が終了した理由について考察した記事のために作成したものであるが、中央にあるのが「Disney Parks, Experiences and Products」。

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