westergaard 作品分析

映画、ミュージカル、音楽、自分が好きなものを分析して語ります。

11/21【ジョン・ラセター セクハラ告発4周年記念】当時の記事を振り返る特集

f:id:ikyosuke203:20211110073038p:plain

はじめに

本日2021年の11月21日は、ピクサー・アニメーション・スタジオとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの双方の「最高クリエイティブ責任者(Chief Creative Officer)」を2006年から2018年までの間勤めたジョン・ラセターがセクシュアル・ハラスメントにより告発された日から4周年を迎える日だ。

当ブログでは、この4周年を記念して、2017年11月の告発当時の Vanity Fair の記事を3本、全文和訳して紹介したいと思う。

事情を詳しくご存知でない方に少々全体像を説明すると、次のようになる。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオでアニメーターの職に付き、CGのアニメーションに可能性を感じてCG映画のプロジェクトを提案し取り組んだジョン・ラセターは、CGに仕事を奪われることを恐れた一部のアニメーターたちの反感を買いスタジオを追い出された。そして出会ったCGの技術開発者エド・キャットマルによって招待されてラセターが入った会社は、後にアップルコンピュータを退社したスティーヴ・ジョブズによって買収され「ピクサー」となった。そのピクサー黎明期から携わり、1995年公開の世界初のフルCGの長編アニメーション映画『トイ・ストーリー』の監督として名を挙げ、その後も最前線を走り続けた彼は、2006年のディズニーによるピクサー買収の結果、かつて彼を解雇したウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオとピクサーの両スタジオのアニメーションに関する全ての作品を監修し、そのクリエイティブな責任を負う立場となった。2013年の『アナと雪の女王』や2014年の『ベイマックス』、そして2016年の『ズートピア』と次々にヒット作をだし、ディズニーも生き返らせたかれは「現代のウォルト」と呼ばれ崇められた。

 

ニューヨークのブルックリンを拠点に性被害者を支援するアクティヴィストの黒人女性、タナ・バークが2006年から行ってきた活動のスローガンが「Me Too」であったが、2017年10月、ハリウッドの映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクシュアル・ハラスメントが公にされたことをきっかけに、俳優のアレッサ・ミラノの呼びかけによってソーシャルメディア上でのアクティヴィズムとしての「#MeToo運動」が加速した。

その流れの中で2017年11月にジョン・ラセターの長年のセクシュアル・ハラスメント等の不適切な行動が告発されたのだ。子ども向けのコンテンツの制作会社として、世界的に覇権を持つディズニーとピクサーの双方を統括する男性がそのような告発の対象となったことは世界に衝撃を与えた。

本記事の以下の部分においては、Vanity Fair が2017年11月21日当日とその翌日に公開した3つの記事を、当ブログ筆者の @westergaard2319 が和訳して紹介する。当時これらの記事を読んだ人は、四年前のことを思い出しながら、読んだことがない方は今この機会にぜひ目を通していただくことで、ピクサーやディズニーのこれまでの作品やこれからの作品に対して自分達がどのように向き合っていくべきか、子どもに見せる際にどのようなことを対話していくべきかについて考えるきっかけになるのではないだろうか。

 

記事1

Pixar's John Lasseter Takes a Leave of Absence After Citing "Missteps" in Vague Memo
ピクサーのジョンラセター休職に  曖昧な「あやまち」に関する社内連絡の後で
--The Pixar co-founder allegedly had a pattern of misconduct.
ピクサーの共同創設者が度重なる不適切行為で告発される
By LAURA BRADLEY (2017/11/21)

 

ディズニー・アニメーションの指導者にしてピクサーの共同創設者であるジョン・ラセターが休職することになったと。最高クリエイティブ責任者(CCO)である彼は、このことを火曜日に同僚に向けた社内連絡で明らかにした。
トイ・ストーリーモンスターズ・インクなどの映画でコンピュータグラフィックスによるアニメーションを普及させることに貢献したラセターは、自身が休職する正確な理由を曖昧にしたが、自身の指導者としてのあり方に「あやまち(missteps)」があったことを言及した。
彼には自身の不在を永続化させる意図はなく、6ヶ月以内に復帰することを誓った。
「私は我々のアニメーションスタジオが、クリエーターたちが他の才能あるアニメーターやストーリーテラーのサポートや協力のもとで自身の理想を探求しできる場所になることを常に望んできました。」とラセターは今回の社内連絡に書いた。
「この種のクリエイティブなカルチャーを維持するためには絶え間なく警戒し続けることが必要です。それは信頼と尊敬に基づいてつくられていて、そのチームの構成員が自分を大切にされていないと感じたら脆くなります。そうならないようにすることがリーダーとしての私の責任でありますが、現在私はこの点において力不足であると自覚している。」

 

 

記事2

Disney and Pixar Employees Detail Life with John Lasseter: Strip Clubs, Close Hugs and "Boxers or Briefs?"
ディズニーとピクサーの従業員がジョン・ラセターとの生活についての詳細を語る:ストリップクラブ、しっかりめのハグそして下着?
--John Lasseter is one of the most powerful figures in animation-nothing short of a living legend. With the 60-year-old taking a leave under the cloud of admitted "missteps," past and present employees of the company are telling their stories.
ジョン・ラセターはアニメーション業界における最も権力のある人物で、まさに生きているレジェンドにほかならない。この60歳が「あやまち」の疑いが立ち込め休職する中で、当該企業のかつてのそして現在の従業員たちがそれぞれの話を語っている。
By REBECCA KEEGAN AND NICOLE SPERLING (2017/11/21)

 

2010年3月、またしてもディズニー傘下のピクサー・アニメーション・スタジオが勝利を手にしたアカデミー賞授賞式の数日後、その最高クリエイティブ責任者であるジョン・ラセターは、ディズニーとピクサーの重役たちの間でやりとりされた緊迫した通話での話題になっていた。このことをVanity Fairにある情報筋の人が最近告げてくれた。
ピクサーウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(WDAS)の社長エド・キャットマルや、WDASのプロダクションチーフのアンドリュー・マイルステイン、ディズニーの広報担当チーフであるゼニア・ムッチャや他数名を含むグループでの会話の中で、アカデミー賞のパーティでのラセターのふるまいについて話し合いがなされた。
伝えられたことによれば、そこでラセターはディズニーの女性従業員にフレンチ・キスをし、身体を愛撫したという。(その従業員は既にディズニーを去っていて、複数回にわたりコメントを求めたが返答してきていない。)
「その通話での話題は、「まじかよ、ジョンのことどうする?」だった」とその通話に参加していた関係者の一人がVanity Fairに告げた。
「ラセターは、常に監視しし続けなくてはならない、すぐにムラムラする(crazy-horny)13歳の少年なんです。しかしながら、ジョンにとって代われるナンバーツーはいません。彼がディズニー・アニメーションとピクサーの生きた心臓なんです。ほんとうに天才で、彼のやることは他の誰にもできないんです。」
ラセターは60歳の既婚者で、彼には5人の息子たちがいます。彼は20年以上にわたって、アニメーション業界の第一人者であり続け、次世代のウォルト・ディズニーだと例えられてきた。そしてアロハシャツと元気いっぱいのハグ、子どものような熱意でよく知られている。ピクサーの最初期の従業員のひとりとして、クリエイティブで商業的な強豪へと会社を成長させることに貢献し、最初の長編映画トイ・ストーリーを監督した。2006年にディズニーがピクサーを全株式取引により74億ドルで買収した時、ラセターはWDASでもリーダーシップを発揮することを期待され、実際にスタジオをルネッサンスへと導いた。
 

記事3

Pixar's Had a Problem with Women for Decades
ピクサーは数十年に渡り女性に関する問題を抱えてきた
--Now that John Lasseter has stepped away from the animation studio he built, following allegations of misconduct, it's time to take a second look at his boys' - club legacy.
ジョン・ラセターが、訴えられた不適切行為によって自身の創設したアニメーション・スタジオから退いた今、彼の「男性限定クラブ」の残した遺産について再考する機会がやってきた。
By YOHANA DESTA (2017/11/22)
 
火曜日、名高きアニメーション業界の指導者ジョン・ラセターは自身が数十年にわたって舵取りしてきたアニメーションスタジオであるピクサーを一時的に休職することを明らかにした。彼は"missteps" といって休職の理由をぼやかしたが、長年に渡る女性従業員への性的な職権乱用をしていたという話がすぐにメディアへと伝えられた。ひとつ前の記事にあるように「ラセターは常に監視しし続けなくてはならない、すぐにムラムラする(crazy-horny)13歳の少年」だと、内部の人間がVanity Fairに告げた。
別の関係者は、ラセターの非難の対象となっている行為が女性の同僚にも向けられていたと述べた。「そこにただいるだけで、女の子として扱われるんです」と元従業員は語る。
「こうして自分の立場を最小限のものへとされるんです。ピクサーで多くの女性がクリエイティブな面で成功していないのには理由があるんです。」
 
この企業の有毒とされる環境についてはより一層掘り下げる必要があるかもしれないが、これらの最初の主張は、ピクサーの評判とスタジオの女性アニメーターたちに対するサポートの歴史的な欠如と、女性主人公の物語に光を当てた。ラセターの事例によってあきらかになるように、ピクサーは長年ずっと古典的な「男性限定の社交クラブ(boy's club)」なのだ。
この2011年の Espuire に書かれたラセターのプロフィールは、打ち解けた男性中心の雰囲気であることに関してスタジオを称賛している。
 
火曜日にHollywood Reporterが、ラシダ・ジョーンズとウィル・マコーマックの脚本家ペアがトイ・ストーリー4から退いたのがラセターがジョーンズに対して「望まない誘いかけ」をした後であると主張した。
しかしジョーンズとマーコックはすぐにその主張を誤りだとする声明を出したと共に、これをピクサーの抱える表象に関するより大きな課題について指摘する好機であると捉えていることを明らかにした。
「私たちがピクサーを去ったのは望まない誘いかけによるものではなかった。それは真実ではありません。私たちはクリエイティブな、また何よりも重要な哲学的な相違からピクサーを去ったのです。」と彼らはThe New York Timesへの声明の中で言及した。
ピクサーにはたくさんの才能の持ち主がいて、私たちも彼らの作品の大ファンであり続けることに変わりはない。しかし、そこの文化では女性や有色人種の人たちがクリエイティブな面において同等な発言権を持てていない。」
 
またジョーンズとマコーマックが、この問題を取り上げた最初の二人というわけではない。ピクサーは1995年以来19本の映画を公開していますが、女性の主人公を物語の中心に据えられているのはそのうちのたった3本(『メリダとおそろしの森』『インサイド・ヘッド』『ファインディング・ドリー』)だけです。(インクレディブルズの内の二人も女性だが、どちらも作品のスターではない。)
New Statesmanが指摘するように、ピクサーの作品を通して109の主要な脚本のクレジットが存在しているが、女性や有色人種はそのうちのたった11人だけです。
 
 
女性キャラクターに焦点を当てた物語でさえ、その舞台裏では問題を抱えています。特に、結婚を望まないスコットランドのプリンセスについてのピクサーの映画『メリダとおそろしの森』で顕著であった。これは、女性キャラクターを主演させた最初のピクサー映画であり、同時に女性が監督した最初のピクサー映画でもあった。監督のブレンダ・チャップマンは、物語自体も自分で創り上げた。チャップマンは2015年、BuzzFeedに対し、2003年にピクサーへ入社した当時のスタジオのストーリー部門には女性が一人もいなかったと語った。彼女は自身がカーズの深みのない表面的な女性キャラクターを「修正」するために雇われたと言ったが、彼女の努力が意味のある効果を発揮するにはほど遠い作品であった。その後まもなくチャップマンは『メリダとおそろしの森』のプロジェクトに着手した。
 
制作の途中でスタジオはチャップマンを解雇し、クリエイティブ的な相違を理由に彼女をマーク・アンドリュースと置き換えた。この決定はアニメーション業界のある内部関係者に衝撃を与えた。「私からみれば、彼女は男性の監督とまったく同じように振る舞うこともできただろうが、それは違ったやり方で行われただろうと思う」と元ピクサーのアニメーター、エマ・コーツはBuzzFeedに語った。「とてもイライラさせる話です。こう実感して、誰もいないことに気づいたんです。ブレンダがいなくなった今、私が尊敬できるひとは誰もいません。男たちの真似をしたところで、彼らが得られるものと同じ結果を私が得られるようにはならないのです。」
 
「これ(『メリダとおそろしの森』)は私が創り上げた物語であり、女性であり母としての非常に個人的な立場から生まれてきたものでした」とチャップマンは映画の公開後にThe New York Timesに寄せたエッセイに記している。「それを取り上げられて、ダレカ別の人に渡されることは、とてもいろいろな度合いにおいて本当に苦痛なことでした。」
 
彼女は続けて「ハリウッドのボーイズクラブ」に立ち向かったにもかかわらず、物語に対する彼女のビジョンが結局実現することになったのだと言及した。
「時々、女性がアイデアを表に出すと撃墜されますが、本質的に同じアイデアを男性が表現しただけでそれが広く受け入れられるということがあります。」と彼女は書いている。「高い地位に十分な数の女性幹部がいるという状況になるまで、こういったことは起こり続けるでしょう。」
 
メリダとおそろしの森』以外では、ピクサーはたった2つの他のものがたりにおいてしか女性の主人公は描かれていません。ひとつは自分の感情を受け止められるようになる少女についての心温まる長編作品『インサイド・ヘッド』、そして『ファインディング・ニモ』の大ヒットした続編である『ファインディング・ドリー』だ。
 
それでも、チャップマンは部分的であったとしても、ピクサー映画を監督した経験のある唯一の女性である。『インクレディブル2(後の『インクレディブル・ファミリー』)』や『トイ・ストーリー4』など、スタジオの今後の映画には女性の監督がついていません。2015年に、ラセター自身が直接スタジオの性別や人種の平等の欠如について直接取り組み、スタジオが「女性や多様なエスニシティのキャラクターたち("female and ethnic characters")」の映画をより多く製作していくと約束していたにもかかわらずである。
 
「私たちが取り組み始めた時、アニメーションのせかいは概して男性によるものでした」と彼は言った。「しかし、より多くの女性やより多くの世界中からの人々がこの業界で働き始めてきたのを見てきました。これはとても刺激的(エキサイティング)なことです。」
 
しかしながら、今回のラセターに対する新たな申立は、なぜアニメーションが、特にピクサーが、「概して男たちによるもの」でありつづけたのかについていくつかの理由をほのめかしている。仮に従業員や元従業員の言っていることが真実なのだとしたら、スタジオは確実に女性アニメーターやクリエーターたちにとって居心地のよおい環境であるようには思えない。T.H.R.の報告によると、ピクサーの女性たちはラセターからの望まないキスを避けるためには正しいタイミングで顔の向きを変えることを余儀なくされている。また、彼女たちは「ザ・ラセター」という彼が彼女らの脚に手を置かないようにするための動きを創り出したともいう。
 
自身の一時的な休職を公表した社内連絡において、ラセターはそういった特定の申立について対応しなかった。しかしながら彼は、同僚の一部が「軽視され、不快に感じていること」について自覚があることを言及した。また「私は望まないハグや、何らかの方法、形式、やり方での行き過ぎたと感じられたしぐさを受け取ったことがある人に対して特に謝罪したいと思います。」と述べた。
 
 
 
(終了)