westergaard 作品分析

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【大問題の吹替歌詞⁉】ミラベルと魔法だらけの家「All Of You / 奇跡はここに」歌詞&和訳

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はじめに

ミラベル、劇場公開終わっちゃいましたね。
そしてディズニープラスでの配信が始まりましたね。

劇場で見られなかった方、字幕上映がなかった地域の方も、観られるようになる日がはやくきたことは嬉しいことですが、コロナ禍で劇場公開期間が短いのが「あたりまえ」になって定着してきているのはハリウッドのビジネス自体が変化しているから仕方ないものではあるものの、なんだか悲しい部分もありつつ…

 

さて今日ご紹介するのは、ミラベルのラストのナンバー「All Of You / 奇跡はここに」です。
この曲、実は致命的な翻訳のミスが有るということで巷では話題になっていますよね。
この記事では、いつもどおり原詞、高橋亜子の吹替歌詞、わたしの日本語対訳の三つを並べた後で、その問題の件について書きたいと思います。

この曲登場人物が多いので歌詞部分が長くなりますが、歌詞を知ってるよという方はスクロールしていただいて、問題について述べる箇所まで行ってください。

ちなみにその「問題」というのは、ストーリー全体の落ちや、メッセージ自体を大きく歪ませてしまう可能性があるくらいの大きさの問題をはらんでいる「誤訳」で、もっと話題になってもいいのではないかと思っている程です。

それではまずは歌詞を。

原語歌詞&日本語対訳&吹替歌詞


www.youtube.com

 

原語歌詞は太い斜体英字吹替歌詞(高橋亜子)は太い斜体日本語westergaardによる対訳は細字

[Mirabel]
Look at this home,
We need a new foundation
壊れたら 建て直せばいい
みてこの家を 新しい基礎が必要ね

It may seem hopeless,
But we'll get by just fine.
大丈夫 家族がいる
希望がないようでも きっと大丈夫になる

Look at this family,
A glowing constellation
夜空に光る 星座のように
みてこの家族を まるで輝く星座ね

So full of stars,
And everybody wants to shine.
みんなが 輝いているよ
星々で溢れてる 誰もが輝きたがってる

But the stars don't shine, they burn,
And the constellations shift.
誰もがそう 大切な星
でもね 星々は輝いてるんじゃない 燃えているの
しかも星座だって変動するの

I think it's time you learn:
You're more than just your gift.
ひとりひとりが 宝物だよね
そろそろ みんな学ぶときだよ
自分は自分のギフト以上の存在であることを

 

[Abuela Alma]
And I'm sorry I held on too tight,
Just so afraid I'd lose you too.
家族を守るため してきたの 厳しく
ごめんなさい 私が固執しすぎたがために
ただあなたたちまでも(ペドロと同じように)
失うのを恐れすぎて

The miracle is not
Some magic that you've got,
The miracle is you, not some gift, just you . . .
The miracle is you.
でも奇跡は魔法じゃなく あなたたちよ
あなたたちこそ かけがえのない
奇跡は あなたたちの魔法ではない
奇跡は あなたたちであってギフトではない
あなたたちそのものが奇跡なの

[Abuela Alma, Julieta, Pepa]
All of you, all of you.
家族 家族
あなたたち皆が あなたたちのすべてが

 

[Camilo]
Okay so . . . we gonna talk about Bruno . . . ?
じゃあもう話していいのかな ブルーノ?
なら ブルーノのことを話す?

[Antonio]
That's Bruno!
あれ ブルーノ?
あの人がブルーノか!

[Bruno]
Yeah, there's a lot to say about Bruno:
ああ 話すこと沢山あるよ
ああ ブルーノについて沢山言うべきことがあるよ

I'll start okay,
まずはペパ
僕が話し始めよう

Pepa, I'm sorry 'bout your wedding,
Didn't mean to be upsetting.
That wasn't a prophecy I could just see you were sweating!
僕は謝りたい あれ予言じゃない
花嫁が緊張していたから
ペパ、結婚式のことごめん
動揺させようとしたんじゃない
あれは予言でもない
ただ君が緊張で汗かいてたのが見えただけ

And I wanted you to know
That your bro loves you so,
Let it in, let it out, let it rain, let it snow
"Let it gooo . . . "
彼の愛情伝えたくて だから雨も雪も関係ないよ
だから伝えたかった 彼が愛してるってのを
感情は隠しても 出してもいいし
雨にしても 雪にしても
”ありのままで”(レリゴーして) いいんだよって

[Félix]
That's what I'm always saying, Bro!
いつも愛してるって言ってるけど
だからいつもそうやって言ってるじゃないか!

[Bruno]
'Got a lotta 'pologies I got say:
Uh-

ごめんよ 本当に謝るよ
ああ ブルーノについて沢山言うことあるよ

[Julieta]
Hey, we're just happy that you're here, okay?
やっと 帰ってきてくれたのね
あなたがここにいてくれるだけで幸せなの わかった?

[Bruno]
But-
あ あの
あ あの

[Pepa]
Come into the light!
これからは
光の当たるところへ

[Bruno]
But-
でも
でも

[Agustin]
The triplets all unite!
みんなひとつだ
三つ子が全員揃った!

[Julieta]
And no matter what happens
もうどこにも
だからいつもそうやって言ってるじゃないか!

[Julieta & Pepa]
We're gonna find our way
行かないでね
ああ ブルーノについて沢山言う

[Dolores (to Camilo)]
Yo I knew he never left,
I heard him every day . . .

いつも彼の声 聞こえてた
ねえ 私 彼が去ってないの知ってた
毎日彼の声 聞こえてたし

[Townspeople]
Oh (oh), oh (oh)

[Abuela Alma]
What's that sound?
あの声は?
あの声は?

[Antonio]
I think it's everyone in town . . .
町のみんなが来たよ
町のみんなみたいだよ

[Townspeople]
Hey!
やあ!
やあ!
Lay down your loard (Lay down your loard)
We are only down the road (We are only down the road)

私たちも ここにいるよ
手伝うために やって来たよ
重荷(重責)を下ろしなよ
わたしたちも道を下ったすぐそこにいるんだから

We have no gifts, but we are many
And we'll do anything for you! 
奇跡は持ってないけど

力になるよ
ギフトは持ってないないけど 人数はたくさんいるよ
それにあなたたちのためになら何でもするよ

[Isabela (Townspeople)]
It's a dream when we work together as a team.
You're so strong . . .
(All of you, all of you . . . )

力を合わせる 素敵なことね
(みんな みんな)
夢だったの 一緒に力を合わせて働くことが
あなたとっても力持ちね
(あなたたち皆が あなたたちのすべてが)

[Luisa (Townspeople)]
Yeah, but sometimes I cry-
(All of you, all of you . . . )

泣けてきちゃうね
(みんな みんな)
そうね でも時には泣いちゃうこともある
(あなたたち皆が あなたたちのすべてが)

[Mirabel & Isabela]
So do I!
分かるわ

私も!

[Luisa]
I may not be as strong, but I'm getting wiser.
強さより賢さもっと
それほど強くはないかもしれないけど 賢くなってる

[Isabela]
Yeah, I need sunlight and fertilizer.
C'mon! Let's plant something new and watch it fly,
栄養 太陽 あげれば ほら みんな元気に育つわ

そう 必要なのは日射と肥料
さあ! 新しいもの植えて 育っていくのを見届けよう

[Isabela, Luisa & Mirabel]
Straight up to the sky!
明日に向かい

空に向かって真っ直ぐに伸びるのを!

[Isabela, Lusia, Mirabel & Dolores]
Let's go . . .
行こう

さあ育て!

[Mirabel & Abuela Alma]
The stars don't shine, they burn,
The constellations glow.
The seasons change in turn.
誰もが皆 命燃やし  季節は変わる

星々は輝いてるんじゃない 燃えているの
そうやって星座は輝く
そして季節は移ってゆく

[Julieta]
Would you watch our little girl go?
幼かったあの子が
見てよ うちの三女の行く末を

[Agustin]
She takes after you.
似てきた 君に
君に似てきたね

[Townspeople]
(Oh, oh, oh, oh . . . )

 


[Mariano]
(big sigh)

[Mirabel]
Hey Mariano, why so blue?
マリアーノ どうした〜の?
ねえマリアーノ どうしてそんなに落ち込んでるの?

[Mariano]
I  . . . just have so much love inside . . .
まだ彼女への愛が
ただ…まだ溢れ余る愛が…

[Mirabel]
Y'know, I've got this cousin too.
Have you met Dolores?

ほらほら 元気だして
ドロレスには会った?

私には こんな従姉妹もいるの
ドロレスとは知り合い?

[DoIores]
Okay, I'll take it from here, g'bye . . .
あとは私がやるわ
おけ、ここからは私が、じゃね!
You talk so loud,
You take care of your mother, and you make her proud.

あなたいつもママを気遣う優しい人 
あなたお母さんを気遣って 彼女の自慢の息子ね
You write your own poetry, evry night when you go to sleep.
And I'm seizing the moment, so would you wake up and notice me?

毎晩詩を書くあなたのつぶやき
いつも聞いてた 私に気付いて
毎晩寝る前 自分の詩を書くあなたの
その瞬間逃さないように聞いてたの
だから目を見開いて私に気付いて

[Mariano]
Dolores . . . I see you.
ドロレス 君しか見えない
ドロレス… いま君を見ているよ

[Dolores]
And I hear you.
あなたしか聞こえない
あなたのことを聞いてるわ

[Julieta]
YES!
やった!
よし!

[Townspeople]
All of you, all of you.
みんな みんな
あなたたち皆が あなたたちのすべてが

[Mariano]
Let's get marrie!
結婚しようよ
結婚しようよ

[Dolores]
Slow down.
慌てない
落ち着いて

[Mirabel, Abuela Alma & Townspeople]
All of you, all of you.
みんな みんな
みんなが みんなが

[Mirabel]
Home sweet home. I like the new foundation.
出来たよ 新しい我が家
心温まる我が家  新しい基礎 気に入ったよ

[Abuela Alma]
It isn't perfect
完璧じゃないけど
完璧ではない

[Mirabel]
Neither are we.
私たちも
それほど強くはないかもしれないけど 賢くなってる

[Abuela Alma]
That's true.
ええ そうね
その通り

Just one more thing, before the celebration:
それにもうひとつ 大切なことが
それからもうひとつ お祝いの前に

[Mirabel]
What?
なに?
なに?

[Bruno]
We  need a doorknob.
ほら このドアノブを
必要だろ ドアノブが

[Antonio]
We made this one for you . . .
ミラベルにつくったの
みんなでミラベルのためにつくったよ…

[Pepa, Dolores, Camilo & Félix]
We see how bright you burn,
その情熱と
あなたがどれほど輝いて燃えていたか 見てるよ/分かるよ

[Isabela & Luisa]
We see how brave you've been,
愛と勇気は
あなたがどれほど勇敢だったかを 見てるよ/分かったよ

[Julieta & Agustin]
Now see yourself in turn . . .
家族の誇り
さあ 今度は 逆に自分を見るんだ

[Bruno]
You're the real gift, kid. Let us in.
そう 君こそが奇跡だ
君こそが本当のギフトだ 僕らを中へ入れて

[Abuela Alma]
Open your eyes. Abre los ojos. What do you see?
さあ見て アブレ・ロス・オホス 何が見える?
目を開いて 何が見える?

[Mirabel]
I see  . . . me.
All of me.

私の未来が
見える そして分かる…私が  私のすべてが

 

問題はここに

問題①「I’m sorry」

問題の箇所ひとつめは冒頭のアルマ婆さんパート。

[Abuela Alma]
And I'm sorry I held on too tight,
Just so afraid I'd lose you too.
家族を守るため してきたの 厳しく

ごめんなさい 私が固執しすぎたがために
ただあなたたちまでも(ペドロと同じように)
失うのを恐れすぎて

まず、アルマ婆さんはここで「I’m sorry」と謝っている。これは非常に重要。

婆さんが自分の間違った認識を誤りだと認識して、謝罪することができるか、ストーリーの展開として非常に重要である。それにもかかわらず、高橋亜子の歌詞では、「ごめん」の一言も訳されていない。

もちろん音節数の制約がある中、要素の取捨選択が必要なのは確かであるがストーリーとこの作品のメッセージ性を理解していればそこは切らないはずだ。残念である。

 

問題②「Miracle is you, not some gift」
続けて、

[Abuela Alma]
The miracle is not

Some magic that you've got,
The miracle is you, not some gift, just you . . .
The miracle is you.

でも奇跡は魔法じゃなく あなたたちよ
あなたたちこそ かけがえのない

奇跡は あなたたちの魔法ではない
奇跡は あなたたちであってギフトではない
あなたたちそのものが奇跡なの

ここは良いだろう。さんざんこのストーリーで言われてきた、
A Gift just as special as you.「あなたと同じくらい特別なギフト」という認識を覆すための「奇跡はあなたであってギフトではない」という歌詞は重要だし、間違っていない。

この映画の冒頭のプロローグでアルマ婆はこう語っている。

[Abuela Alma]
Tonight, this candle will give you your Gift, mi vida.
Strengthen our communitiy, strengthen our home.
Make your family proud.
今夜 このキャンドルがあなたにギフトを与える。
コミュニティをより強くし、我が家をより強くする。
そして家族の誇りになる。
(略)
Whatever Gift awaits will be just as special as you.
どんなギフトであれ、あなたと同じくらい特別なはず。(対訳はwestergaardによる)

 

この言い方の前提には、ギフトがなければあなたは特別ではないというアルマ婆の価値観が露呈している。そしてこの価値観に縛られているため、マジカルメンバーのだれもがルイーサの歌に象徴されるようにプレッシャーを感じ、イサベラの歌のように選択の自由を望んでいたのである。

 

問題③ 「Just you」

The miracle is you, not some gift, just you . . .

ただこの歌詞の「just you」というところは訳出しにくいが抑えておきたいニュアンスのポイント。
今までアルマ婆さんが「あなたは大切」と言うときの「あなた(you)」には必ず、「ギフト(魔法)を持っているあなた」というのが含意されていた。しかし、魔法の存在にかかわらず、一人の人間としてのあなた自身が奇跡なのだという認識に変わったことがここで示される。しかしjustというニュアンスがないため、あまりこの差が伝わらなくなっているのは確かだ。とは言え、こんな問題は序の口でもっと大きな問題が待っている。

問題④ 「All of you」

[Abuela Alma, Julieta, Pepa]
All of you, all of you.
家族 家族
あなたたち皆が あなたたちのすべてが

またこれも大した問題ではなさそうに見えるが、All of you を「家族」と訳すのは、この後エンカントの人たち全員がやってきてそこも含めた All of you にフレームが拡大していくことを考えると適切とは言い切れない。残念ながら血縁主義ディズニーを吹替がより一層限定的なワードを繰り返すことにより強めてしまっていると言える箇所の一つだ。別にここでは「家族」かどうかは関係ない。そこにいる人たちすべて、という意味で All of youと言っているのだろう。

しかももうひとつの問題が大きな問題である。

「All of you」は、二つ意味がある。「you」を複数形ととれば、「あなたたちみんな」という意味になるが、「you」を単数形ととれば、「あなたのすべて(身も心も含めて)」という意味になる。

このダブルミーニングをふまえて、曲名となっているのだ。

 

この曲の一番最後のミラベルの歌詞を見れば単数形の形が使われているのが分かる。

I see  . . . me.
All of me.

私が見える。私のすべてが。と言っている。その意味で言えば、この曲のタイトルになっている All of You は All of Mirabel なのだろうとも読むことができる。

どちらにしても、
すべての人の(複数形の方)、その人のすべてを(単数形の方)リスペクトし、称賛する。その人の「才能」「ギフト」「役割」という部分だけをみて称賛するのではなく、その人をその人としてみろというのがこの曲のいちばん大事なメッセージだ。しかしそこはこのダブルミーニングを日本語でしかもたった3音節で再現することは不可能なので、放棄している。

まあここは仕方ないだろう。放棄する以上、ミュージカルナンバーとしては他の部分の歌詞でこの役割を果たさないといけないことになる。しかし、次の問題へ続く…

 

問題⑤ 最大の問題「家族の誇り

最大の問題はラストの(本来)感動的なパートである。
しかし、あまりに誤訳すぎて冷めてしまうくらいだ。

[Pepa, Dolores, Camilo & Félix]
We see how bright you burn,
その情熱と
あなたがどれほど輝いて燃えていたか 見てるよ/分かるよ

[Isabela & Luisa]
We see how brave you've been,
愛と勇気は
あなたがどれほど勇敢だったかを 見てるよ/分かったよ

[Julieta & Agustin]
Now see yourself in turn . . .
家族の誇り
さあ 今度は 逆に自分を見るんだ

[Bruno]
You're the real gift, kid. Let us in.
そう 君こそが奇跡だ
君こそが本当のギフトだ 僕らを中へ入れて

[Abuela Alma]
Open your eyes. Abre los ojos. What do you see?
さあ見て アブレ・ロス・オホス 何が見える?
目を開いて 何が見える?

[Mirabel]
I see  . . . me.
All of me.

私の未来が
見える そして分かる…私が  私のすべてが

 

 

最大の問題の箇所はどこか? ここだ

[Julieta & Agustin]

Now see yourself in turn . . .
家族の誇り
さあ 今度は 逆に自分を見るんだ

ここで「家族の誇り」は絶対に使ってはいけなかった。

この作品のメッセージ「家族の誇りになる」のではなく、生まれたときからすべての人の存在が奇跡としてリスペクトされその人はその人自身として見られるべきだというものである。

ミラベルは、「アルマ婆の呪い」によって、映画の冒頭からずっと一貫して「家族の誇り」になることに固執してきた。タイトルロゴを挟む前のヤングミラベルの最後の台詞であり、挟んだあとの成長したミラベルの最初の台詞でもある。
それが唯一彼女が「一人前の人間として見られる」ために必要だと考えて育ったのだ。
なぜならミラベルは「ギフト」がもらえなかったあの日から「見てもらえて」いなかったから。だから彼女の心の叫びはこう歌う。Open your eyes / 目を開いて(わたしをみて)」と(♪Waiting On A Miracle/奇跡を夢みて)。

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この物語のゴール地点となるのが「♪All Of You/奇跡はここに」のナンバーであることは、この日本語版タイトルをつけた人なら絶対にわかっているはずだしそのことを強調するためにわざわざ対応するタイトルにしたのだろう。

しかし残念ながら訳詞をつけた高橋亜子とそれにGOを出したウォルト・ディズニー・ジャパンのチームはこの曲の役割を分かっていない。

このナンバーは、「家族に生まれてきたからには家族の誇りになれ」という「アルマ婆の呪い」からミラベルが解放される、いや、というかむしろアルマ婆をはじめとするミラベル以外のみんなが「家族は家族の誇りになる必要がある」という認識を手放すことを示すものだ。だから「家族の誇り」というワードは来てはならないし、そもそも原詞には「誇り/proud」などというワードは1ミリも入ってない。

しかし高橋亜子はここで、しかもよりにもよってフリエッタとアグスティンに「家族の誇り」と歌わせてしまった。最悪だ。
フリエッタは、上手くミラベルの気持ちに寄り添ったかたちで声掛けできていなかった問題はあったにせよ、他の人とはちがって最もミラベルに対して適切な解はもっていた人として描かれていた。むしろアルマ婆の呪いから解放しようと試みていた。

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[Julieta]
You have nothing to prove.
あなたはなにも証明しなくていい。

You're just as special as anyone else in this family.
あなたは他の家族のメンバーと同じくらい特別だよ。

しかし、アルマの敷いた価値観にみんなが従っている中で、しかも「持てる」側であるフリエッタがいくらそれを言っても響くわけがない。

しかもよりによってその「家族の誇り」によってすり替えられ消されたフリエッタとアグスティンの歌っていたパートは

Now see yourself in turn . . .

今度は自分自身を見て と言っているのだ。つまり、これまで周りの人のことをよーく見て、それぞれの本音に気づいてきたミラベルが、自分自身に目を向けるように優しく言っているのだ。ここを潰して「誇り」などという扶養なワードに使ってしまったのは非常に惜しい。

むしろ必要だったキーワードは「see」だ。歌詞を見て分かるように明らかに繰り返されている重要なワードだ。ブルーノ以外全員が「see」と歌っている。

We see how bright you burn,
We see how brave you've been,
Now see yourself in turn . . .
You're the real gift, kid. Let us in.
Open your eyes. Abre los ojos. What do you see?

I see  . . . me. All of me.


その情熱と 愛と勇気は 家族の誇り
そう 君こそが奇跡だ
さあ見て アブレ・ロス・オホス 何が見える?
私の未来が

「see」もダブルミーニングをかけている。「見る」だけでなく「わかる」という意味でも使われる。もちろんこれを訳詞に反映するのはプロにも難しいだろう。諦めたのであれば他の箇所でその役割を果たせるような回収の仕方をすべきところだが出来ていない。残念だ。

ギャグみたいな言い方になるが、この映画は

ミラベルが(一人の人間として)見られるようになる映画だ。

すくなくとも映画の冒頭が「Abre los ojos(目を開いて)」で始まる以上、「見る」というキーワードは強調されねばならない。

なにせミラベルの「mira」は「見る」というスペイン語のワードであり、意図的にメガネのキャラクターにその名前をつけたということも既にバイロン・ハワード監督によって語られているのだから。

news.yahoo.co.jp

 

まとめ

ということで、色々書いたが、最大の問題は

「今度は自分のことをみて」という一番大事なフリエッタとアグスティンの歌詞を「家族の誇り」という最もここで入れてはならないワードにすり替えたことだ。

これによって、映画の根幹を揺るがしてしまっている。これが最大の問題だ。

 

タイトルは釣りのために「誤訳」と書いたが、おそらく翻訳した高橋亜子もわかっているのだろう。しかし、それでもこの選択をしたという意味であえて「誤訳」と言わせてもらった。

映画のメッセージを根本的に変えてしまいかねない以上、ここについてはしっかり指摘せざるを得ない。

だれも、家族の誇りになる必要はない。すべてのひとが今生きているその状態で尊重され、ひととして「みられる」世界になりますように。

 

そして翻訳者やこの訳詞にGOをだした某会社の方々へ

Abre los ojos.(目を開いて♥)

 

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