westergaard 作品分析

映画、ミュージカル、音楽、自分が好きなものを分析して語ります。

Broadway Aladdin 「These Palace Walls」歌詞和訳 から 実写アラジン「Speechless」の意義が見えてくる

はじめに

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アラジンは1992年にアニメーション映画として公開された後、20年近くの時を経て、2011年ごろからMusicalとしてのプロダクションが開始し、結果として2014年にブロードウェイのニューアムステルダムシアターで上演が始まり、大ヒット。現在も同じ劇場でロングラン公演しています。

日本はブロードウェイ公演開始の翌年に世界初英語以外の言語での上演を、美女と野獣以来ディズニーミュージカルをほぼ一手に引き受ける劇団四季が上演開始し、現在もチケットがなかなか手に入らないという大人気のロングランを続けています。

美女と野獣もそうでしたが、アニメーション、ミュージカルを経て実写映画化される流れがこのアラジンにも適応され、2019年にガイ・リッチー監督作品として公開されています。

美女と野獣では、91年アニメーション版の公開時にカットされていたナンバー "Human Again" はブロードウェイ版で追加され、その後アニメ版が改めてディスクリリースされる際に再度追加されたり、"Home"(四季名:「我が家」)は、2017年の実写版でルミエールがベルを部屋に案内するシーンの背景に流れるインストルメンタルとして密かに採用されていました。

このように別の媒体で作品化するときに、元々あったが使っていなかったアイデアを使ったり、一度使ったアイデアを別の形で再度使ったりすることは頻繁に行われており、これはディズニーの制作チームでアラン・メンケンのような作曲家やティム・ライスのような作詞家が、形の違う媒体でのリリースでも共通して関わっていることが関係していると思われます。

 

もともと自分の I Wish Song がなかったジャスミン

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ディズニープリンセスには基本的に、自分の夢を歌う「I Wish Song」というものが用意されています。例えば、アリエルなら「Part of Your World」、ベルなら「Belle (Reprise)」、ティアナなら「Almost There」、ラプンルェルなら「When Will My Life Begin」など。

ジャスミンはタイトルロールがアラジンであり、あくまでジャスミンはストーリー上アラジンの恋愛対象として出てくるキャラクターであることも関係しているのか、「A Whole New World」の合いの手しか入れさせてもらっていませんでした。もちろんこの楽曲はディズニーソングを代表するような有名曲であり、ジャスミンの歌といえばこれではあったのですが、これはあくまでアラジンが主体となって歌っています。しかもアラジンがジャスミンを騙しながら。

そこで2011年から製作の始まったミュージカルではジャスミンに歌が与えられそれが今回の記事で取り扱う「These Palace Walls」でした。

These Palace Walls 歌詞と対訳、劇団四季歌詞

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歌詞はミュージカル版から作詞に参加したChad Beguelinが新しく書きました。

私がつけた対訳は黒字で、劇団四季用に「ありのままで」で有名な高橋知伽江さんがつけた訳詞を <青字> で表記します。

私がつける対訳は、歌えるように音節数を揃えるのではなく、できるだけ英語のニュアンスを反映していこうと思います。

 

[JASMINE:ジャスミン]

“A princess must say this”
「プリンセスたるものこれを言わねばならない」
<王女たるものこう言う話し方をすべきだ>
<こういう格好をすべきだ そして>

"A princess must marry a total stranger", it's absurd!
「プリンセスは全く知らない人に結婚せねばならない」そんなのばかげてる!
<会ったこともないどこかの王子と結婚すべきだって そんなのおかしいわ>

 

Suitors talk of love but it's an act
Merely meant to throw me
求婚者は愛してるって言うけど、そんなの所詮演技
ただ私をその気にさせようとしてるだけ
(throw me off で「気を散らさせる」)
<あの人達のプロポーズ どうせ嘘よ>

 

How could someone love me when in fact
They don't know me
どうしたって私を愛してくれる訳ないじゃない
私のことなんてわかってもないのに
<私のこと何も 知らずに>

 

They want my royal treasure
When all is said and done
欲しがっているのは私の王室の宝
結局のところは
<狙いは財産 私じゃない>

 

It's time for a desperate measure
もう一か八かの策をとる時ね
<全ては計算>

So I wonder
だから私知りたいの
<愛じゃない>

 

Why shouldn't I fly so far from here?
どうして私はここから遠くへ飛び出しちゃいけないの?
<ここを飛び出したい>

I know the girl I might become here
ここにいてなるべき女の子の姿っていうのはわかるもの
<自由になりたいのに>

Sad and confined and always locked behind these palace walls
悲しみ封じ込められいつもこの王宮の壁に閉じ込められてるそんな姿
<閉じ込められてる 壁の中に>

 

[ATTENDANT #1:侍女1] (speaking):

I don't know princess, for someone like you
the outside world might be kind of overwhelming
プリンセス、私にはわからないけど、貴方のような方にとっては
外の世界は少し強烈すぎるかもしれません
<でも王女様には外の世界は少し刺激が強すぎやしないかと>

 

[JASMINE:ジャスミン] (speaking):

Is that a promise?
本当にそうなの?
<本当?>

 

[ATTENDANT #2:侍女2] (spoken):

I think it would do her some good
私は、彼女のためになると思います
<私はいいことだと思いますけど。>

 

[JASMINE:ジャスミン] (spoken):

You do?
そう思う?
<でしょ?>

 

[ATTENDANT #2:侍女2] (spoken):

Honey I've never seen someone who needed to get out more
愛しい姫様、もっと外へ出る必要のあるお方は
貴方の他に見たことがありませんもの。
<ええ。外の世界をご覧になるべきです。>

 

[ATTENDANTS:侍女たち]

Told to show devotion everyday
毎日忠誠心見せろと言われ
<しきたりに縛られ>

And not second guess it
後からとやかく言うなと言われ
<閉じ込められ>

 

[JASMINE:ジャスミン]

If a new emotion comes my way
新たな情動が湧いて着ても
<心の声さえも>
(2019年実写版新曲Speechlessの日本語タイトルここにありましたね笑)

[ATTENDANTS:侍女たち]

You suppress it
押し殺してる
<抑えてる>

 

[JASMINE:ジャスミン]

What would be your suggestion?
どうしたらいいと思う?
<どうすべきかしら?>

 

[ATTENDANTS:侍女たち]

Stand on your own two feet
その両足でしっかり立って
<胸に手を当て>

And ask why a certain question keeps repeating
問うべき「どうして?」を繰り返し続けるの
<何が望みかを 問いかけて>

 

[JASMINE:ジャスミン]

Why shouldn't I fly so far from here?
どうして私はここから遠くへ飛び出しちゃいけないの?
<ここを飛び出したい>

 

I know the girl I might become here
ここにいてなるべき女の子の姿っていうのはわかるもの
<本当の自分らしく>

 

Follow your heart or you might end up cold and callous
心に従うか、そうでなきゃ冷たく無感覚になって終わるだけ
<心のままに生きてみたい>

 

[ALL:一同]

Love comes to those who go and find it
愛は見つけにいく人のところへ訪れるもの
<愛は見つけにいくもの>

If you've a dream then stand behind it
もし夢があるなら応援しましょう
<夢は追いかけるもの>

 

[JASMINE:ジャスミン]

Maybe there's more beyond these palace walls
きっともっとたくさんのことがこの宮殿の壁の向こうにあるはず
<行きたい 壁を超えて>

What if I dared
もし思い切ってやって見たらどうなるかな
<私に>

What if I tried
もしチャレンジして見たらどうなるかな
<できるの?>

Am I prepared for what's outside
外にでる準備できているかな
<覚悟は いいのね?>

 

Why shouldn't I fly so far from here?
どうして私はここから遠くへ飛び出しちゃいけないの?
<ここを飛び出したい>

 

Something awaits beyond these palace walls
何かがこの宮殿の壁の向こうに待ち受けている
<自由に壁の向こうへ>

 

[ALL:一同]

Something waits beyond these palace walls
何かがこの宮殿の壁の向こうに待っている
<何かが待っているわ>

 

 

なぜ「These Palace Walls」がミュージカルで追加されたか?:プリンセス史的に捉える追加の意義

2019年時点ではもはや「新しく」なくなった「外の世界へ憧れる」価値観(=「These Palace Walls」)ですが、裏返せば2011〜2014年のミュージカル版製作中の時点ではわざわざこの曲をジャスミンのI Wish Songとして入れることが「新しい」「センセーショナル」だと判断されていたことが明らかになるわけです。 

2011年ということは、2009年のティアナの「Princess and the Frog」、2010年にラプンツェルの「Tangled」が公開された後であり、自分から外へ出て夢を見つけにいくプリンセス像がほぼ完成し、それをさらにロマンス不要路線へ転換させるゲームチェンジャー・メリダの「Brave」(2012)がピクサーからリリースされる前年に当たります。

 

(プリンセス史や「ゲームチェンジャー・メリダ」については以下の記事参照のこと)

ikyosuke.hatenablog.com

 

この時期であるので当然与えられる曲は「外の世界への憧れ」を歌う曲になっているわけです。

 

なぜ「These Palace Walls」は2019年実写版で採用されなかったのか?

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この疑問に端的に答えるならば、映画を見た人であれば自明だと思いますが、そもそも映画の冒頭シーンからすでに「Palace Walls」の外に出ているから、です。

最初から出ているということは、その前にすでにジャスミンはThese Palace Wallsのようなやり取りを侍女のダリアさんとしていたかもしれません。でもそれは映画としては入れない判断をリッチー監督がしたから私たちが見ることはありませんでした。

ではなぜ最初から外に出ているか?

3つ理由が考えられます。


1つ目

外に出ることを望み、外に出るかどうか葛藤し決断する姿というのは2019年においてはもうもはや「新しくない」「センセーショナルでない」からでしょう。1989年に「陸の世界」に憧れる人魚があの曲を歌ってから、もう今年で30年になるわけで、いまさらやっても仕方ないと判断したのだと思われます。

逆にいえば、外に出た上で何をするのか、何のために外に出るのか、そこが重要なわけです。

2つ目

ブコメ的な展開を限られた時間でよりスピーディに進めるためにアラジンとの出会いを早くする必要があったから。
これは十分にありえるでしょう。

3つ目

外せないアラジンの自己紹介ソング「One Jump Ahead」の逃走シーンで一緒にアクションをやらせたかったから。
これはプリンセスにアクションシーンをやらせるというエンパワメント的な意味合いもあれば、アラジンとジャスミンの間の信頼関係の構築を描くためのシーンにするためという意味合いもあると思われます。
ちょうど、Frozenでアナとクリストフがオオカミから逃げるシーンと同じように。

 

 

これらのような実務的な理由やイデオロギー的な複数の理由からガイ・リッチー監督は最初からジャスミンが外に出ている設定にするという判断をしたのではないかと推察できます。

 

裏返しに問う「Speechless」の意義

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さて、ミュージカル版で追加された曲はもはや「センセーショナル」でなくなってしまったわけですが、2019年のガイ・リッチーの描く実写ジャスミンにはまた新しい「I Wish Song」が与えられました。それが「Speechless」でした。

 

ikyosuke.hatenablog.com

 

Speechlessについてはディズニーのレジェンド作曲家のAlan Menkenへのインタビューで彼が次のように語っています。

今回の僕の主な命題はジャスミンのための新たな曲を作ることでした。

「もうスピーチレスではない。口はつぐまない」という彼女の声が、現代的な意味を持って観客に届くようにしなければなりませんでしたが、想像以上にいいものができたと思い、今はホッとしています。

(中略)

この曲は女性のためのエンパワーメント(力、元気、励まし)を象徴する曲にしたいと初めから思っていました。もちろん曲作りはいろいろなことを考えながらしますが、映画の中の曲は、ストーリーにはまらなければならないし、物語をサポートするようなものでなくてはなりません。「スピーチレス」は、まず一つの楽曲として書き下ろしました。
初めは映画の最後で使うつもりでしたが、それでは遅すぎる。また冒頭で使うのも早すぎいると思いました。なので、劇中では前半と後半で半分に分けて使っています。そうすると映画のスコア(総譜)全体を支えてくれることに気づきました。

 

(取材・文・写真/田中雄二

引用元:「ウレぴあ総研:エンタメOVO」ー【インタビュー】『アラジン』作曲アラン・メンケン「今回の僕のベイビーは『スピーチレス』です」(2019.5.30.10:00配信)

ure.pia.co.jp

 

メンケン氏の「映画の冒頭で使うには早すぎる」と言う言及からも、映画前半にジャスミンの心の内を歌うための、いわゆる「I Wish Song」を用意することを模索していたことが読み取れます。

また、「エンパワーメントを象徴する曲にしたい」という思いありきで作曲しているということがはっきり言及されたのがこのインタビュー記事のすごく重要なところであると思います。

ブロードウェイ版では結局ジャスミンは「These Palace Walls」で決心して外に出て、街でストリートパフォーマンスをしているアラジンとその仲間たちに出会い、そこでアラジンに一目惚れされ、そのあと「A Million Miles Away」という囚われの身から自由になった姿を妄想しながら歌う曲で意気投合します。

しかし結局政治的にも物語の進行的にもジャスミンにはあまり決定権はなく、最後の場面においても父である王がジャスミンが望むアラジンとの結婚をできるように法律を変えることで、ジャスミンの夢のひとつを叶えてくれている。

2019年実写版では、ジャスミンはアグラバーの民の幸せのために自分こそが王になるべきだと考えていて、そのため民のことを知りもしないよその王子に政治を任せられるはずないという考えから王子との結婚に後ろ向きな態度をとっている。
しかし、王である父親は彼女自身が王位継承者となって政権を握ることについて、「千年の歴史の中で女性が王になったことはないから」という理由で諦めさせようとしてくる。最終的には王が、ジャスミンの演説や勇敢な行動をみて彼女の王としての未来の姿を垣間見た結果、彼女を次なる王にする。そして王となったジャスミンが、門の外にいるアラジンを迎えに行くかたちで結婚に至る。自らの行動で夢のひとつを叶えるのである。

(まあ仮にアラジンとの結婚がジャスミンにとっての夢のひとつであるならば、の話だが笑 なんなら2019年版は、正直言ってアラジンと結婚しなくてもオッケーな筋書きになっていたと思います。笑)

 

Speechlessを唯一の新曲として、しかもかなり他のナンバーとはテイストの違う曲として作曲し、アレンジしたことで、「声なき状況」を歌詞の中で何度もなんども否定することを強調するというエンパワメントを実現しているのです。

もう「外に出たら何かが待ってる」というのは「新しく」ないどころか、「何かが待っている」わけないんですよね。自分で何かをしなければいけない。自分で声をあげることでしか世界は変えられない。

そう言った方向になって言っていることはディズニー・プリンセス史的に見れば明らかで、Moanaにおけるモアナの「呼ばれるから行く」から「自分が自分のやりたいこととして定義し、自分自身を定義する」という「How Far I'll Go」が「I am Moana」で完成される構造で既に示されているわけです。

 

 

以下に私の書いた記事から引用しておきます。またこの部分はdpost.jp さんの記事からの引用も紹介しているのでそちらの記事も案内しておきます。

③モアナの先をゆく最新のディズニープリンセス:ヴァネロペ・ヴォン・シュウィーツの誕生

『Moana:モアナと伝説の海』では、ありたい姿を決めるのは自分であり、与えられた使命を果たすのではないというメッセージが「海に選ばれた少女」から「自ら向かう少女」への転換という形で描かれましたが、そのアップデート版がヴァネロペを通して描かれます。

「シュガーラッシュを救うハンドルを手に入れる少女」から「自分の新しいホームを見つけに行く少女」への転換として。

 

これ、現時点で最新のプリンセス像であるモアナをさらに書き換えようとしているのです。

モアナが新しかった理由は dpostさんが2016年の記事でも書かれているように、「向かう方向は『呼ばれた場所』と同じであったとしても、自らの内なる言葉で表現できないうちは "足りない”」(dpost, 2016)からこそ「I am Moana」と自らを定義することによって、「与えられるのではなく、自らが望み、自らを定義し、知る」プリンセス像を描いた点にあります。

引用元:「westergaard 作品分析」ー Ralph Breaks the Internet (シュガー・ラッシュ・オンライン)考察 [ネタバレあり]  2018.11.23更新

Ralph Breaks the Internet (シュガー・ラッシュ・オンライン)考察 [ネタバレあり] - westergaard 作品分析 

 

dpost.jp

 

「『与えられるのではなく、自らが望み、自らを定義し、知る』プリンセス像」が最新の像だとする文脈で捉えれば、「Speechless」が2019年的な「<主体的で能動的な> I Wish Song」として加えられたことの意義がより一層はっきりと見えてくるようなのです。

 

「These Palace Walls」が2019年版に採用されなかった理由を考えることで、裏返しに「Speechless」の意義が見えてくる、というお話でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。