トイストーリー4向けにシリーズ一作目からおなじみの Randy Newman が作詞作曲し自ら歌う I Can't Let You Throw Yourself Away という新曲が作られました。日本語吹き替え版では、こちらも一昨目からおなじみのダイヤモンド✡ユカイさんが吹き替え歌詞(訳詞:中川五郎)を歌っています。
ジャスミンはディズニープリンセスの第二波のアリエル、ベルに続く80年代フェミニズムの文脈に乗っかったエンパワメントプリンセスの3人目として1992年に登場し、「I'm not a prize to be won(私はゲームの賞品なんかじゃないの)」というセリフとともに記憶されている3人の中では最も過激な発言をしたプリンセスとして認識しています。
しかし彼女はプリンセスとして登場しながら、主役ではなくあくまで主役はアラジンであり、アラジンの恋愛対象として描かれていたこともあってか、他のプリンセスのように前半に登場して自分の夢について歌う「I Wish Song」は作ってもらえず、言わずと知れた A Whole New World でアラジンに対して合いの手を入れるくらいしかさせてもらえていませんでした。このことについては、こちらの記事で These Palace Walls の歌詞の和訳とともに紹介しましたので、興味のある方は是非ご一読ください。
そういういみでようやく「自分らしい」自分の歌を程入れることのできたジャスミンは「Speechless」をもってはじめて Speechless(主張なし)ではなくなったということが言えるかもしれません。なにせ、自分らしい I Wish Song を持つことは、「プリンセスであるならば当然」であることが、ヴァネロペとOhMyDisneyのプリンセスたちとの会話を通して公式で認められているわけなのですから。
Here comes a wave Meant to wash me away ほら 私を洗い流そうとする波がやってきた A tide that is taking me under 私を引きずり降ろそうとする大波が
これが、低すぎるとかかってしまい翼が重たくなってしまう、波しぶきのメタファーと重なります。
Part 2
Try to lock me in this cage この牢屋に閉じ込めてみなさい I won't just lay me down and die 横になって死んでいったりしないから I will take these broken wings この壊れた翼を持ち出して And watch me burn across the sky 空を駆け抜け燃える私をみなさい
パート2においても、Lock me in this cage というのは完全に捕らえられたイカロスとダイダロスを想起させる言い方です。 また、イカロスの引用ということを念頭において歌詞を読んでいくと、「空を駆け抜け燃える私をみなさい」というのは、空高く飛ぶことで蝋が溶けて燃え出すことを想定した上で、それをわかっていても高く飛んでやるというジャスミンの強い意志が感じられる歌詞として認識できます。
おそらく、翼は王がジャスミンに与えた教育の、牢からの脱出は脈々と受け継がれた古い価値観("Written in stone Every rule, every word")のメタファーで、彼女があの場面で臆せず意見を言ったことで王の心は動かされ、イカロスの二の舞にならず、父子揃って因習の牢獄から脱出できた。
2)Speechless における「女性の商品化:"Better Seen Not Heard"」に対するアンチテーゼ
① ChirO_oy5656 さんのツイート:「低すぎず高すぎず」
冒頭の "wave meant to wash me away"の部分(波の描写)や後半の "broken wings" "burn across the sky"(空で燃える壊れた翼)の部分が ="Stay in your place Better seen and not heard(見目麗しく愛想よく(=低すぎず)、但し高飛車な意見は言うな)というジャスミンが受ける抑圧を表している。
Stay in your placeというのは、王妃が殺されてから自分の娘まで危険にあうことを恐れて部屋から出るな、宮殿から出るなという父王の「声」のエコーであることは間違いないと思いますが、「Better seen and not heard」というのは劇中のセリフだけを頼りにするのであれば、あきらかにジャファーの「声」のエコーです。
ジャファーは本人こそ女性の商品化を直接する描写はありませんが、ジャスミンが商品的価値が高いことを政治利用しようとしていることは間違いありません。それこそが、「Better Seen not Heared」という言葉でしょう。 しかしそこにジャスミン(女性)の「発言力」はありません(Speechless 状態)。
Can your friends go poof? Hey, look here 君の友達はこれできる?ハッ! ほれ、見てごらん? Can your friends go "Abracadabra," let'er rip And then make the sucker disappear! 君の友達はアブラカダブラ唱えて おもいっきりやっちゃえ それからそいつら消すことも!
[2019]
Can your friends go- (start voice percassion) 君の友達はこれできる?(ボイパ) (rapping) I'm the genie of the lamp I can sing, rap, dance, if you give me a chance, oh! (ラップしながら)俺はランプの魔人 歌えて、ラップもできて、踊れちゃう、チャンスさえくれれば、そう!
ディズニープリンセスには基本的に、自分の夢を歌う「I Wish Song」というものが用意されています。例えば、アリエルなら「Part of Your World」、ベルなら「Belle (Reprise)」、ティアナなら「Almost There」、ラプンルェルなら「When Will My Life Begin」など。
ジャスミンはタイトルロールがアラジンであり、あくまでジャスミンはストーリー上アラジンの恋愛対象として出てくるキャラクターであることも関係しているのか、「A Whole New World」の合いの手しか入れさせてもらっていませんでした。もちろんこの楽曲はディズニーソングを代表するような有名曲であり、ジャスミンの歌といえばこれではあったのですが、これはあくまでアラジンが主体となって歌っています。しかもアラジンがジャスミンを騙しながら。
“A princess must say this” 「プリンセスたるものこれを言わねばならない」 <王女たるものこう言う話し方をすべきだ> <こういう格好をすべきだ そして>
"A princess must marry a total stranger", it's absurd! 「プリンセスは全く知らない人に結婚せねばならない」そんなのばかげてる! <会ったこともないどこかの王子と結婚すべきだって そんなのおかしいわ>
Suitors talk of love but it's an act Merely meant to throw me 求婚者は愛してるって言うけど、そんなの所詮演技 ただ私をその気にさせようとしてるだけ (throw me off で「気を散らさせる」) <あの人達のプロポーズ どうせ嘘よ>
How could someone love me when in fact They don't know me どうしたって私を愛してくれる訳ないじゃない 私のことなんてわかってもないのに <私のこと何も 知らずに>
They want my royal treasure When all is said and done 欲しがっているのは私の王室の宝 結局のところは <狙いは財産 私じゃない>
It's time for a desperate measure もう一か八かの策をとる時ね <全ては計算>
So I wonder だから私知りたいの <愛じゃない>
Why shouldn't I fly so far from here? どうして私はここから遠くへ飛び出しちゃいけないの? <ここを飛び出したい>
I know the girl I might become here ここにいてなるべき女の子の姿っていうのはわかるもの <自由になりたいのに>
Sad and confined and always locked behind these palace walls 悲しみ封じ込められいつもこの王宮の壁に閉じ込められてるそんな姿 <閉じ込められてる 壁の中に>
[ATTENDANT #1:侍女1] (speaking):
I don't know princess, for someone like you the outside world might be kind of overwhelming プリンセス、私にはわからないけど、貴方のような方にとっては 外の世界は少し強烈すぎるかもしれません <でも王女様には外の世界は少し刺激が強すぎやしないかと>
2011年ということは、2009年のティアナの「Princess and the Frog」、2010年にラプンツェルの「Tangled」が公開された後であり、自分から外へ出て夢を見つけにいくプリンセス像がほぼ完成し、それをさらにロマンス不要路線へ転換させるゲームチェンジャー・メリダの「Brave」(2012)がピクサーからリリースされる前年に当たります。
ブロードウェイ版では結局ジャスミンは「These Palace Walls」で決心して外に出て、街でストリートパフォーマンスをしているアラジンとその仲間たちに出会い、そこでアラジンに一目惚れされ、そのあと「A Million Miles Away」という囚われの身から自由になった姿を妄想しながら歌う曲で意気投合します。
そう言った方向になって言っていることはディズニー・プリンセス史的に見れば明らかで、Moanaにおけるモアナの「呼ばれるから行く」から「自分が自分のやりたいこととして定義し、自分自身を定義する」という「How Far I'll Go」が「I am Moana」で完成される構造で既に示されているわけです。
ちなみに舞台版(ブロードウェイやその日本語版の劇団四季バージョン)ではいわゆる『I WISH ソング』としての「These Palace Walls」がありましたが、それはいわゆるアリエルのいうPart of "that" worldやベルの言う There must be more than this provincial life のようなファジーな、漠然とした「外への憧れ」を歌うような仕上がりでした。
ちなみに舞台版(ブロードウェイやその日本語版の劇団四季バージョン)ではいわゆる『I WISH ソング』としての「These Palace Walls」がありましたが、それはいわゆるアリエルのいうPart of "that" worldやベルの言う There must be more than this provincial life のようなファジーな、漠然とした「外への憧れ」を歌うような仕上がりでした。